死因贈与契約の登記手続きについて司法書士が解説します
「先日兄が亡くなりました。兄の生前、私と兄は、兄が所有する不動産を私に贈与する死因贈与契約を結び、死因贈与契約書も作成していました。この場合どのような手続きが必要なのでしょうか?」

こういった疑問にお答えします。
この場合、贈与の対象となった不動産について所有権移転登記手続き(名義変更の手続き)が必要になります。
死因贈与の登記手続きは、受贈者(贈与を受けた人)と、贈与した人の相続人全員または死因贈与契約の執行者が共同して行います。
この記事では、死因贈与契約の贈与者が亡くなったときの受贈者の方を対象に、死因贈与契約による所有権移転登記手続きについて司法書士がわかりやすく解説します。
死因贈与契約の登記手続きについて司法書士が解説します

死因贈与契約の贈与者(贈与した人)が亡くなった場合、死因贈与契約の効力が発生し、受贈者に財産が移転します。
贈与するのが不動産の場合、登記手続きが必要になります。
死因贈与の所有権移転登記手続きは、受贈者(贈与を受けた人)と、贈与者の相続人全員または死因贈与契約の執行者が共同して行います。
誰が相続人なのかは、別記事にまとめてあるので参考にしてください。
- ・関連記事 相続人の範囲【どこまでが相続人なのか】
執行者とは、贈与者が亡くなった後に、贈与者に代わって死因贈与契約の内容を実現するために動く人のことです。
死因贈与契約を締結するときに、執行者を選任することができます。
死因贈与契約で執行者が選任されていないときは、受贈者と贈与者の相続人全員が共同して登記を申請します。
しかし、本来なら相続できたはずの不動産をほかの人に贈与されてしまい、気分を害した結果、相続人が登記に協力しないという事態は十分考えられます。
もし相続人が登記手続きに協力しない場合は、執行者の選任を裁判所に申し立てるか、相続人に対して訴訟を起こす必要があります。
それではまず、執行者や相続人が登記に協力する場合について解説し、その後、相続人が登記手続きに協力しない場合について解説します。
執行者がいる、または相続人が登記に協力する場合

執行者がいる場合や、相続人が登記に協力する場合は、申請書を作成し、添付書類を集めて、法務局に申請すれば、登記手続きは完了します。
また死因贈与契約にもとづく所有権移転登記する場合、次の二つのパターンがあります。
- ・仮登記がされていない場合
- ・死因贈与の仮登記がされている場合
仮登記とは、将来の登記を保全するためにする登記です。
仮登記は、権利は発生しているけども書類がそろっていないときや、将来に権利を取得することが予定されているけど、まだ権利が発生していない場合にすることができます。
死因贈与契約が締結された場合、贈与者の生前でも仮登記をすることができます。
贈与者の生前に仮登記がされているかどうかで、手続きが変わります。
仮登記がされていない場合
死因贈与の仮登記がされていない場合は、そのまま死因贈与契約にもとづく所有権移転登記をします。
申請書を作成し、添付書類を集めて、受贈者と、執行者または相続人が共同で申請します。
もし受贈者を執行者に選任している場合は、受贈者兼執行者が単独で申請することができます。
死因贈与契約の所有権移転登記の申請書の記載は、次の通りです。
- 登記申請書
- 登記の目的 所有権移転
- 原 因 令和〇年〇月〇日贈与
- 権 利 者 〇〇市○○町○丁目○番地
- B
- 連絡先の電話番号 ○○○-○○○-○○○〇〇
- 義 務 者 〇〇市○○町○丁目○番地
- 亡A相続人 C
- 連絡先の電話番号 ○○○-○○○-○○○〇〇
- 〇〇市○○町○丁目○番地
- 亡A相続人 D
- 連絡先の電話番号 ○○○-○○○-○○○〇〇
- 添付書類 登記原因証明情報 登記識別情報(または登記済証)
- 印鑑証明書 相続証明書 住所証明書
- 令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局〇〇出張所
- 課税価格 金○円
- 登録免許税 金○円
- 不動産の表示
- (省略)
- 不動産番号 ○○○○○○○○○○○○
ひな形はこちらです。
権利者とは、受贈者のことです。
義務者とは、執行者または相続人です。
添付書類は次の通りです。
- ・登記原因証明情報
- ・登記識別情報(または登記済証)
- ・印鑑証明書
- ・住所証明書
登記原因証明情報

登記原因証明とは、登記原因(この場合は死因贈与)があったことを証明する書類です。
死因贈与契約の場合は、死因贈与契約書が登記原因証明情報になります。
死因贈与契約書が、公正証書ではない普通の契約書の場合は、贈与者の印鑑証明書も必要になります。贈与者の印鑑証明書は、期限はありません。
死因贈与契約書は、コピーして「この写しは原本に相違ありません」と記載したものを一緒に提出すると、あとで原本は返してもらえます。
また贈与者が亡くなったこと証明するため、戸籍などが必要になります。
相続人が義務者になる場合は、相続関係を証明する戸籍が必要になります。
- ・関連記事 相続に必要な戸籍謄本の集め方、古い戸籍の読み方
登記識別情報(または登記済証)

不動産の権利証です。
平成17年以降、順次発行されており、現在発行される権利証はすべて登記識別情報です。
それに対して、古いタイプの権利証を登記済証といいます。
権利証を紛失している場合は、こちらの記事を参考にしてください。
印鑑証明書

義務者の印鑑証明書が必要になります。
執行者が選任されている場合は、執行者の印鑑証明書を添付します。
執行者がいない場合は、相続人全員の印鑑証明書を添付します。
義務者の印鑑証明書は、作成後3カ月以内のものでないといけません。
住所証明書
権利者(受贈者)の住民票を添付します。
納税通知書か評価証明書
申請書には記載しませんが、不動産の課税価格を証明するために、納税通知書か評価証明書を添付します。
納税通知書は不動産の名義人あてに毎年送られてくる書類です。
評価証明書は不動産の所在地の役所で取得できます。
登録免許税
登録免許税は、課税価格の1000分の20です。
課税価格は、納税通知書か評価証明書で知ることができます。
登録免許税は、収入印紙を台紙に貼り付けて申請書などと一緒に提出します。
申請先

申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。
法務局の管轄については、法務局のホームページをご覧ください。
- ・外部リンク 管轄のご案内
死因贈与の仮登記がされている場合
死因贈与の仮登記がされている場合は、仮登記にもとづく本登記を申請します。
死因贈与契約の仮登記にもとづく本登記の申請書の記載は、次の通りです。
- 登記申請書
- 登記の目的 〇番仮登記の所有権移転本登記
- 原 因 令和〇年〇月〇日贈与
- 権 利 者 〇〇市○○町○丁目○番地
- B
- 連絡先の電話番号 ○○○-○○○-○○○〇〇
- 義 務 者 〇〇市○○町○丁目○番地
- 亡A相続人 C
- 連絡先の電話番号 ○○○-○○○-○○○〇〇
- 〇〇市○○町○丁目○番地
- 亡A相続人 D
- 連絡先の電話番号 ○○○-○○○-○○○〇〇
- 添付書類 登記原因証明情報 登記識別情報(または登記済証)
- 印鑑証明書 相続証明書 住所証明書
- 令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局〇〇出張所
- 課税価格 金○円
- 登録免許税 金○円
- 不動産の表示
- (省略)
- 不動産番号 ○○○○○○○○○○○○
ひな形はこちらです。
登録免許税
登録免許税は、課税価格の1000分の20です。
課税価格は、納税通知書か評価証明書で知ることができます。
登録免許税は、収入印紙を台紙に貼り付けて申請書などと一緒に提出します。
申請先
申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。
法務局の管轄については、法務局のホームページをご覧ください。
- ・外部リンク 管轄のご案内
相続人が登記手続きに協力しない場合
執行者がおらず、相続人が登記手続きに協力しない場合は、次のいずれかの手続きが必要になります。
- ・死因贈与執行者選任の申立て
- ・相続人に対して、所有権移転登記手続請求訴訟を提起
死因贈与執行者選任の申立て

執行者がいない場合に、執行者の選任を家庭裁判所に申し立てる手続きです。
申立書を作成して、必要書類を集めて、家庭裁判所に提出します。
申立書の書式はこちらです。
必要書類は次の通りです。
- ・贈与者の死亡の記載のある戸籍謄本(全部事項証明書)
- ・申立人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- ・執行者候補の住民票または戸籍の附票
- ・死因贈与契約書
- ・不動産登記事項証明書
贈与者の死亡の記載のある戸籍謄本(全部事項証明書)
贈与者の死亡を証明するために必要になります。
申立人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)

これらの謄本は、法定相続情報一覧図の写しで代用できますが、念のため裁判所へご確認ください。
執行者候補の住民票または戸籍の附票
戸籍の附票とは、住所地の移動の履歴をまとめたものです。
本籍地の市区町村の役所で取得できます。
- ・関連記事 戸籍の附票とは何かわかりやすく解説します
死因贈与契約書
死因贈与契約書が必要になります。
不動産登記事項証明書
贈与の対象である不動産の情報を証明する書類です。
法務局で取得できます。
その他各裁判所から必要な資料の提出を求められる場合があります。
申立先
贈与者が亡くなったときの住所地の家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄については、裁判所のホームページで確認してください。
- ・外部リンク 裁判所の管轄区域
申立費用
費用としては、収入印紙800円と、郵便切手がかかります。
収入印紙は、申立書に貼付します。
郵便切手の額は、裁判所によって異なりますので、各裁判所にお問い合わせください。
相続人に対して、所有権移転登記手続請求訴訟を提起
相続人に対して、登記を求める訴訟を起こす方法です。
裁判で勝訴すれば、単独で登記することができますが、裁判が決着するまで相当な期間がかかることが多いです。
まとめ
以上、死因贈与契約による所有権移転登記手続きについて解説しました。
登記手続きについて自分でするのが難しい場合は、司法書士に依頼することができます。
大阪の方でしたら、当事務所でも承っております。
ご相談の方は、電話(06-6356-7288)か、こちらのメールフォームからお問い合わせください。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。