包括遺贈と特定遺贈の違いをわかりやすく解説【遺言書の作成】

遺言の相談者

「私は、子どもが1人います。妻には先立たれたので、相続人はこの子どもだけですが、若い時に浪費を繰り返し、そのたびに私が肩代わりしてきました。さらに数年前に実家を出ていったきり全く連絡もしてきません。こんな息子には財産を残したくありませんので、お世話になった方たちに遺贈したいと思います。遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があると聞きました。包括遺贈と特定遺贈の違いを教えてください」

 

大阪の司法書士・行政書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。

遺贈とは、遺言で財産を贈与することです。

  1. ・関連記事 相続と遺贈の違いは?


遺贈には、包括遺贈特定遺贈という方法があります。

包括遺贈とは、財産を一人または数人に割合を指定して遺贈する方法です。

特定遺贈とは、遺産の中の特定の財産を、特定の人に遺贈する方法です。

この記事では、これから遺言を書いてみようという方向けに、包括遺贈と特定遺贈の違いをわかりやすく解説します。

 

包括遺贈と特定遺贈の違いをわかりやすく解説【遺言書の作成】

遺言公正証書

包括遺贈は、財産を一人または数人に割合を指定して承継させる遺贈です。

特定遺贈は、遺産の中の特定の財産を、特定の人に承継させる遺贈です。

たとえば、「私が所有する全財産を、Aに2分の1、Bに2分の1の割合で遺贈する」という遺言が包括遺贈です。

これに対して「私が所有する下記の不動産を、Aに遺贈する。私が所有する下記の預貯金をBに遺贈する」という遺言は特定遺贈です。

 

包括遺贈とは

包括遺贈は、遺言者(遺言を書いた人)のすべての財産を一人または数人に承継させます。

すべての財産を包括遺贈することもできますし、一部の財産を包括遺贈することもできます。

たとえば「私が所有する全財産のうち3分の1をAに包括遺贈する」とすることができます。

この場合、残りの3分の2は相続人が承継することになります。

すべての財産には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産、つまり借金も含まれます。

たとえば、財産の中に不動産と預貯金のほかに住宅ローンが含まれていれば、受遺者(遺贈を受けた人)は住宅ローンも承継することになります。

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされています(民法990条)。

そのため、たとえば「私が所有する全財産のうち3分の1をAに包括遺贈する」という遺言を書いた場合、残りの3分の2は相続人が相続するので、Aは相続人たちと遺産分割協議をすることになります。

遺産分割協議とは、相続人同士で、相続財産の分け方を話し合うことです。

  1. ・関連記事 遺産分割協議とは何か?【遺産の分け方についての話し合い】

 

また「私が所有する全財産を、Aに2分の1、Bに2分の1の割合で遺贈する」とした場合も、AとBで遺産分割協議をすることになります。

この話し合いがまとまらないとトラブルになってしまうので、注意が必要です。

 

特定遺贈とは

特定遺贈は、遺産の中の特定の財産を、特定の人に承継させる遺贈です。

たとえば、遺産の中に不動産、現金、預貯金がある場合に、不動産だけを特定の誰かに遺贈する場合が特定遺贈です。

「私が所有する下記の不動産を、Aに遺贈する」というのは特定遺贈になります。

 

包括遺贈と特定遺贈の税金上の違い

相続人ではない第三者に特定遺贈した場合、その第三者に不動産取得税がかかる場合があります。

包括遺贈の場合は、相続人ではない第三者に遺贈しても、不動産取得税はかかりません。

 

包括遺贈する場合の遺言の記載例

包括遺贈する場合の遺言の記載例をいくつか掲載します。

遺言の内容はケースバイケースですので、それぞれの事情に応じて作成してください。

こんな書き方でいいのかわからないという場合は、司法書士などの専門家にご相談することをおすすめします。

 

すべての財産を1人の受遺者に包括遺贈する場合

包括遺贈
  1. 第○条 遺言者は、遺言者が有する一切の財産を、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に包括遺贈する。

すべての財産を1人の受遺者に包括遺贈する場合の文例です。

生年月日と住所を記載して、個人を特定できるようにします。

遺言者より受遺者の方が先に亡くなった場合、受遺者が受けるはずだったものは、相続人に帰属します(民法995条)。

そこで、どうしても相続人に相続させたくない場合は、受遺者が先に亡くなった場合、次に誰に遺贈するのか指定することもできます。

 

代表的な財産を記載する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者が有する下記記載の財産のほか、全ての財産を、Aに包括遺贈する。
  2.    1 不動産
  3.           土 地
  4.         所  在  ○○市○○町○丁目
  5.         地  番  ○○番○○
  6.         地  目  宅地
  7.         地  積  ○○.○○平方メートル
  8.         
  9.         建 物
  10.         所  在  ○○市○○町○丁目○○番地○○
  11.         家屋番号  ○○番○○
  12.         種  類  居宅
  13.         構  造  木造スレート葺2階建
  14.      床 面 積  1階 ○○.○○平方メートル
  15.            2階 ○○.○○平方メートル
  16.    
  17.   2 預 金
  18.      ○○銀行○○支店 普通預金 ○○○○○○○
  19.      ○○信用金庫○○支店 普通預金 ○○○○○○○
  20.    
  21.   3 その他の財産

すべての財産を遺贈する場合でも、受遺者がどんな財産があるかわからないと、財産を調査しないといけませんので、財産の詳細を具体的に記載しておいた方がいいでしょう。

 

1人の受遺者に一部の割合を包括遺贈する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者が有する全財産のうち3分の1を、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に包括遺贈する。
  2. 第〇条 遺言者は、前条で遺贈した残りの3分の2を、相続人B(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に相続させる。

1人の受遺者に一部の割合を包括遺贈する場合です。

遺贈されなかった、残りは原則通り相続人が相続します。

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)とされていますので、この場合は、受遺者Aと相続人Bが遺産分割協議をする必要があります。

親族同士ではない人たちが遺産分割協議をする場合、争いになる可能性が高くなるので、このように1人の受遺者に一部の割合を包括遺贈する遺言はあまりおすすめできません。

 

複数の受遺者に包括遺贈する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者が有する全財産を、次の者らに、包括遺贈する。
  2.  1 内縁の妻A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に4分の2
  3.  2 B(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に4分の1
  4.  3 社会福祉法人C(住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に4分の1

複数の受遺者に包括遺贈する場合の文例です。

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)とされていますので、この場合もA、B、Cで遺産分割協議をすることになります。

 

特定遺贈する場合の遺言の記載例

特定遺贈する場合の遺言の記載例をいくつか掲載します。

遺言の内容はケースバイケースですので、それぞれの事情に応じて作成してください。

こんな書き方でいいのかわからないという場合は、司法書士などの専門家にご相談することをおすすめします。

 

不動産を遺贈する場合

不動産を遺贈
  1. 第○条 遺言者は、遺言者が所有する下記の不動産を、大変お世話になったA(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に遺贈する。
  2.               記
  3.   1 土 地
  4.     所  在  ○○市○○町○丁目
  5.     地  番  ○○番○○
  6.     地  目  宅地
  7.     地  積  ○○.○○平方メートル
  8.    
  9.   2 建 物
  10.     所  在  ○○市○○町○丁目○○番地○○
  11.     家屋番号  ○○番○○
  12.     種  類  居宅
  13.     構  造  木造スレート葺2階建
  14.     床 面 積  1階 ○○.○○平方メートル
  15.            2階 ○○.○○平方メートル

不動産を遺贈する場合の文例です。

不動産の記載は、住所ではなく、土地の場合は、所在、地番、地目、地積を、建物の場合は、所在、家屋番号、種類、構造、床面積を記載して特定します。

登記簿謄本(登記事項証明書)を見ながら、正確に記載する必要があります。

 

自動車を遺贈する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者が所有する下記の自動車を、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に遺贈する。
  2.              記
  3.    登  録  番  号  ○○○○○○○
  4.    種       別  ○○
  5.    用       途  ○○
  6.    自家用・事業用の別  ○○用
  7.    車       名  ○○○○
  8.    型       式  ○○○○
  9.    車  台  番  号  ○○○○
  10.    原 動 機 の 型 式  ○○○○
  11.    使用の本拠の位置   ○○○○

自動車を遺贈する場合、車検証などの記載を見て、できるだけ特定して、ほかの自動車と区別できるようにしましょう。

 

小型船舶を遺贈する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者が所有する下記の小型船舶を、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目〇番○号)に遺贈する。
  2.              記
  3.    船 舶 の 名 称  ○○○○
  4.    船 舶 の 種 類  ○船
  5.    船   籍   港  ○○市
  6.    総  ト  ン   数   ○○.○○トン
  7.    船 体 識 別 番 号  JP―○○○ ○○○○○ ○○○○
  8.    機関の種類及び型式  ○○○○
  9.    登 録 年 月 日  令和○年○月○日
  10.    船  舶  番  号  ○○○―○○○○○ ○○

小型船舶の場合も自動車と同様に、できるだけ特定できるようにします。

 

上場株式を遺贈する場合

株式
  1. 第○条 遺言者は、遺言者が有する下記の株式を、A(昭和○○年○月○日生)に遺贈する。
  2.    管 理 口 座  ○○証券株式会社○○支店
  3.    口 座 番 号  ○○○○○○○
  4.    銘柄(コード)  ○○株式会社普通株式
  5.    数     量  ○○株

上場株式を遺贈する場合の文例です。

証券会社から残高証明書を取り寄せ、正確に記載して特定できるようにします。

 

非上場株式を遺贈する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者が有する下記の株式を、A(昭和○○年○月○日生)に遺贈する。
  2.    会社名  ○○株式会社(本店所在地○○ 代表取締役○○)
  3.    券 種  普通株式○株
  4.    記 号  ○○
  5.    番 号  ○○○○

上場されていない株式を遺贈する場合の文例です。

株券が発行されていない場合、会社に対して株主名簿記載事項を記載した書面の交付を請求することができますので(会社法122条1項)、それを見て正確に記載します。

 

預金を遺贈する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者名義の下記の預金債権を、A(昭和○○年○月○日生)に遺贈する。
  2.               記
  3.    1 ○○銀行○○支店 普通預金
  4.      口座番号 ○○○○○○○
  5.     
  6.    2 ○○銀行○○支店 定期預金
  7.      口座番号 ○○○○○○○

預金を遺贈する場合の文例です。

銀行名、支店名、預金の種類、口座番号を記載します。

預金額は日々、変動していくので記載する必要はありません。

 

暗号資産を遺贈する場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者名義の下記の暗号資産を、A(昭和○○年○月○日生)に遺贈する。
  2.                記
  3.    暗号資産の種類  ○○○
  4.    保  有  数  ○○○
  5.    取 引 所 名  ○○○
  6.    I     D  ○○○○○○

暗号資産も財産的価値があるので、遺贈することができますが、念のために、生前に暗号資産取扱事業者に確認しておいた方がいいでしょう。

 

遺言書のくわしい書き方

遺言を書く人

そのほかの遺言のくわしい書き方については、別記事にまとめてありますので、ぜひご覧ください。

  1. ・関連記事 遺言の書き方【遺言の文例と気を付けるポイント】


まとめ

以上、包括遺贈と特定遺贈の違いを解説しました。

遺言を書いておきたいけど、状況が変わるかもしれないので、なかなか書くことができないという場合もあるかもしれません。

しかし、遺言は何度でも書き直すことができます。

どういった遺言を書くのが一番いいのかわからないという場合は、司法書士などの専門家に相談しながら書いてみるのもいいでしょう。

大阪の方なら当事務所でも承っています。

当事務所の遺言書作成サポートサービスの詳細はこちら。

  1. ・関連記事 田渕司法書士・行政書士事務所の遺言書作成サポートサービス


というわけで今回は以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。