相続分の指定と遺産分割方法の指定の違いを解説【遺言書】

遺言の相談者

「私には、妻と長男、次男がいます。子ども2人は仲が悪いのですが、私の財産を相続したときに遺産争いで揉めてほしくないので、遺言を書いておこうと思っています。遺言の書き方には、相続分の指定と、遺産分割方法の指定という方法があると聞きました。相続分の指定と遺産分割方法の指定はどう違うのですか?」

 

大阪の司法書士・行政書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。

遺言書の書き方には、相続分の指定という方法と遺産分割方法の指定という方法があります。

相続分の指定とは、法定相続分と異なる割合の相続分を遺言で定めることです。

遺産分割方法の指定とは、遺産を相続人にどのように分けるのかを遺言で指定することです。

この記事では、これから遺言書を書いてみようと思っている方向けに、相続分の指定と遺産分割方法の指定の違いについて、わかりやすく解説します。

 

相続分の指定と遺産分割方法の指定の違いを解説【遺言書】

遺言書

遺言書には、相続分の指定と遺産分割方法の指定という書き方があります。

相続分の指定は、法定相続分と異なる割合の相続分を遺言書で定める方法です。

たとえば、「長男○○の相続分は3分の1、次男○○の相続分は3分の2」という遺言が遺産分割方法の指定になります。

遺産分割方法の指定は、遺産を相続人にどのように分けるのかを遺言書で指定する方法です。

たとえば、「長男○○に下記の不動産を相続させる。次男○○に下記の預貯金を相続させる」という遺言が遺産分割方法の指定になります。

 

相続分の指定とは

法定相続分とは異なる相続分で相続させたい場合、遺言書で相続分を指定することができます。

遺言書がない場合、相続人は法定相続分という、法律で決められた割合で相続することになります。

  1. ・関連記事 法定相続分とは?【法定相続分の割合について解説します】

 

たとえば、相続人が配偶者と長男、長女の場合、法定相続分は、次の通りになります。

  1. 配偶者 2/4  長男 1/4  長女 1/4
法定相続分

もし、長男より長女の取り分を多くしたいと思う場合、たとえば遺言書で、長男1/8、長女3/8といった相続分の割合にすることができます。

相続分の指定

これが相続分の指定です。

 

遺産分割方法の指定

相続

相続人は、法定相続分または遺言で指定した相続分の割合で遺産を相続することになります。

もし、遺産が現金や預貯金だけなら、各相続分で割ることができるので、わかりやすいです。

しかし、建物や、自動車、貴金属などの動産は、物理的に割るのが難しいです。

そこで遺産をどう分けるかを決めないといけません。

遺産をどう分けるか決めることを遺産分割といいます。

たとえば、相続人が配偶者と長男、長女の場合、「配偶者が不動産を承継して、子ども2人が現金、預貯金を2分の1ずつ承継する」などと決める必要があります。

遺言で遺産分割の方法を決めることができます。

これが遺産分割方法の指定です。

もし、遺言で遺産分割方法を指定しない場合、被相続人が亡くなった後に、相続人同士で遺産分割の方法を話し合います。

これを遺産分割協議といいます。

  1. ・関連記事 遺産分割協議とは何か?【遺産の分け方についての話し合い】


遺産分割協議

遺言書がない場合、または遺言書で相続分の指定だけされている場合、相続人は遺産分割協議をする必要があります。

なので、遺言書を書くときは、遺産分割方法を指定した方がいいかと思います。

遺産分割には、次の通りの分け方があります。

  1.  ・現物分割
  2.  ・代償分割
  3.  ・換価分割


現物分割

現物分割とは、各財産をそのまま各相続人が相続する分割方法です。

たとえば、不動産は長男が相続して、預貯金は次男が相続する場合や、土地を分筆して、各相続人に相続させる場合などです。



代償分割

代償分割とは、特定の相続人が財産を相続する代わりに、ほかの相続人に対して金銭などを支払う分割方法です。

たとえば、長男が不動産を相続する代わりに、長男が次男に代償金を支払うようなケースです。

相続財産が建物など、物理的に分割しにくいものが多く、現預金など分割しやすいものがあまりないような場合に使われます。



換価分割

換価分割とは、相続財産を売却して、売却代金を分割する方法です。

たとえば、たとえば、相続財産である不動産を売却して、売買代金を各相続人が分割する方法です。

相続財産に自宅不動産があるけども、相続人が誰も住む予定がないというような場合に使われます。


相続分の指定をする遺言書の文例

遺言書を書く人

ここでは、相続分の指定をする場合の遺言書の文例を掲載しておきます。

遺言の内容はケースバイケースですので、それぞれの事情に応じて作成してください。

こんな書き方でいいのかわからないという場合は、司法書士などの専門家にご相談することをおすすめします。


相続人全員の相続分を指定する場合

  1. 第○条 遺言者は、次のとおり各相続人の相続分を指定する。
  2.      妻A(昭和○○年○○月○○日生)   8分の4
  3.      長男B(昭和○○年○○月○○日生)  8分の3
  4.      次男C(昭和○○年○○月○○日生)  8分の1

各相続人の相続分を指定する遺言の例文です。

注意しないといけないのは遺留分についてです。

遺留分とは、相続人に残しておくべき最低限の取り分のことです。

遺留分は法律で認められた相続人の権利なので、遺言でも排除することはできません。

もし相続人の遺留分を侵害するような遺言を書いた場合、遺留分を下回る相続分を指定された相続人は、ほかの相続人に遺留分に相当する金銭を請求することができます。

そうなると相続争いになるリスクがあります。

そうならないように、遺留分を侵害しないような遺言を書くことをお勧めします。

遺留分については、くわしくはこちらの記事をご覧ください。

  1. ・関連記事 遺留分とは?司法書士がわかりやすく解説【相続人の取り分】

 

法定相続分より少ない相続分しかない相続人はもしかしたら不満に感じるかもしれません。

そこで、このような遺言内容にした理由を付言事項に記載しておくといいでしょう。

付言事項とは、遺言を遺した理由や趣旨、家族へのメッセージなど遺言を書いた人の気持ちを自由に書く事項です。

  1. ・関連記事 遺言の付言事項とは?家族につたえるメッセージ【遺言の文例】

 

一部の相続人の相続分を指定して、ほかの相続人の相続分がない場合

  1. 第○条 遺言者は、次のとおり相続人の相続分を指定する。
    1. 長男A(昭和○○年○○月○○日生)  2分の1
    2. 長女B(昭和○○年○○月○○日生)  2分の1

相続人に長男A、次男B、長女Cがいる場合に、長男A、長女Cの相続分だけを指定して、次男の相続分をゼロにすることもできます。

また、「全財産をすべて長男Aに相続させる」と全財産を一人に相続させることもできます。

しかし、この場合は、相続人の遺留分を侵害することになりますので、後々相続争いになるリスクがあります。

このような一部の相続人の相続分をゼロにするというのは、何らかの事情があると思います。

そのような事情がある場合は、付言事項に記載しておきましょう。

無用な相続争いを防ぐことができるかもしれません。

 

遺産分割方法の指定をする遺言書の文例

遺言書

遺産分割方法の指定をする場合の遺言書の文例を掲載しておきます。

遺言の内容はケースバイケースですので、それぞれの事情に応じて作成してください。

こんな書き方でいいのかわからないという場合は、司法書士などの専門家にご相談することをおすすめします。


現物分割の場合

  1. 第○条 遺言者が所有する次の不動産は、遺言者の妻A(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
  2.                   記
  3.     1 土 地
  4.       所  在  ○○市○○町○丁目
  5.       地  番  ○○番○○
  6.       地  目  宅地
  7.       地  積  ○○.○○平方メートル
  8.  
  9.     2 建 物
  10.       所  在  ○○市○○町○丁目○○番地○○
  11.       家屋番号  ○○番○○
  12.       種  類  居宅
  13.       構  造  木造スレート葺
  14.       地  積  ○○.○○平方メートル
  15.  
  16.     3 上記2建物内に所在する動産
  17.          
  18. 第○条 遺言者が所有する次の預貯金は、遺言者の長男B(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
  19.     (預貯金の表示)
  20.     次の金融機関又は自宅などに存する遺言者名義の預貯金等のすべて
  21.      ○○銀行 ○○支店
  22.      普通預金
  23.      口座番号 
  24.   
  25.      ○○銀行 ○○支店
  26.      定期預金
  27.      口座番号 
  28.   
  29.      上記以外のその他の金融機関

 

代償分割の場合

  1. 第○条 遺言者が所有する次の不動産を含む下記の財産は、遺言者の長男A(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
  2.   
  3. Aは、前条の遺産を取得する代償として、長女B(昭和○○年○○月○○日生)に対して、金○○万円を支払う。
  4.                     記
  5.     1 土 地
  6.       所  在  ○○市○○町○丁目
  7.       地  番  ○○番○○
  8.       地  目  宅地
  9.       地  積  ○○.○○平方メートル
  10.     
  11.     2 建 物
  12.       所  在  ○○市○○町○丁目○○番地○○
  13.       家屋番号  ○○番○○
  14.       種  類  居宅
  15.       構  造  木造スレート葺
  16.       地  積  ○○.○○平方メートル
  17.   
  18.     3 上記2建物内に所在する動産

 

換価分割の場合

  1. 第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を換価処分させ、その換価金から、遺言者の葬儀費用、未払の公租公課その他の債務、不動産登記費用等の諸費用を控除して支出させ、その残余金を遺言者の長男A(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
  2.                    記
  3.     所  在  ○○市○○町○丁目
  4.     地  番  ○○番○○
  5.     地  目  宅地
  6.     地  積  ○○.○○平方メートル

 

相続分の指定と遺産分割方法の指定はどちらがいいか

相続分の指定と遺産分割方法の指定では、遺産分割方法の指定の方がいいでしょう。

相続分の指定だけしても、相続人は遺産分割協議をする必要があります。

相続人同士の仲が良ければいいですが、あまり仲が良くない場合、遺産分割協議でもめてしまうかもしれません。

もし、当事者同士の話し合いでまとまらなかったら、遺産分割調停という裁判手続きをする必要があります。

  1. ・関連記事 遺産分割調停の流れ【必要書類は?合意できなかったら?】

 

そうなると相続人同士の関係の修復が難しくなってしまいます。

また、相続人の仲が悪くなくても、だれか1人が遠方に住んでいるなどでなかなか話し合いができないため、遺産分割協議がまとまらないという場合もあります。

そうならないように、遺言書で遺産分割方法の指定をしておくことをおすすめします。

 

遺言書の書き方について

その他遺言書の書き方については、くわしくは別記事にまとめてありますので、ご覧ください。

  1. ・関連記事 遺言の書き方【遺言の文例と気を付けるポイント】


まとめ

以上、相続分の指定と遺産分割方法の指定の違いについて解説しました。

遺言書を作成する場合、遺産分割方法の指定がおすすめです。

しかし具体的にどう書いたらいいのかわからない場合もあるかと思います。

その場合は、司法書士などの専門家に相談しながら作ることもできます。

大阪の場合は、当事務所でも承っています。

当事務所の遺言書作成サポートサービスの詳細はこちらをご覧ください。

  1. ・関連記事 田渕司法書士・行政書士事務所の遺言書作成サポートサービス

 

というわけで今回は以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。