負担付き遺贈とは?例文付きでわかりやすく解説【遺言】

遺言の相談者

「私には、妻と長男、次男がいます。妻は高齢なのですが、次男は遠方に住んでいるので、同居している長男に妻の面倒を見てもらいたいと思っています。そこで長男に居住している土地建物を遺贈する代わりに、妻の面倒を見てもらう遺言を作りたいと思っています。このような遺言を負担付き遺贈というと聞きました。負担付き遺贈のことをくわしく教えてください」

 

大阪の司法書士・行政書士の田渕です。お答えします。

遺言で財産を贈与することを遺贈といいます。

負担付き遺贈とは、財産を遺贈する代わりに、遺贈を受ける人に何らかの義務を負担させる遺言のことです。

この記事では、これから遺言を書こうとする方向けに、負担付き遺贈の概要や例文、注意点などについてわかりやすく解説します。


負担付き遺贈とは?例文付きでわかりやすく解説【遺言】

遺言書

財産を遺贈する代わりに、遺贈を受ける人に何らかの義務を負担させる遺言が負担付き遺贈です。

たとえば、子どもに財産を遺贈する代わりに妻を扶養してもらう場合や、障害がある次男の養育を長男にしてもらう代わりに、長男に財産を遺贈する場合などです。

包括遺贈でも特定遺贈でも負担を課すことができます。

負担付き遺贈を受けた人は、遺贈の価額を超えない限度で、負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。

遺贈する財産の価額以上の負担を強制させることはできません。

遺贈は契約ではなく、遺言を書いた人が一方的にすることなのに、遺贈する財産の価額以上の負担を受遺者(遺贈を受ける人)に課すのは不条理だからです。

受遺者は、遺言を書いた人が亡くなった後いつでも遺贈を放棄することができます(民法986条)。

これは負担付き遺贈も同じです。

負担付き遺贈を放棄すると、受遺者は財産を取得しませんし、負担を履行する義務もありません。

そのため、あまりに無理な負担を強いる負担付き遺贈をすると、放棄されて遺言の意味がなくなってしまうことがあるので注意が必要です。


負担付き遺贈の例文

ここでは負担付き遺贈の例文をいくつか記載します。

遺言の作成は、それぞれケースバイケースです。

それぞれの事情に合わせて、作成する必要があります。

ご不安な方は司法書士などの専門家に相談されることをおすすめします。


遺贈する代わりに親族の世話をさせる場合

  1. 第○条 遺言者は、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号)に対し、遺言者の所有に係る下記の不動産を遺贈する。
  2. 2 Aは、前項の遺言の負担として、遺言者の妻B(昭和○○年○月○日生)が老人ホーム等の施設に入居するまでは、Bを下記建物に無償で居住させ、Bの身の回りの世話をしなければならない。
    1. (省略)

遺贈する代わりに、遺贈を受けた人に親族の世話をさせる場合の例文です。


遺贈する代わりに住宅ローンを負担させる場合

家の相続
  1. 第○条 遺言者は、Aに対して、下記の財産を遺贈する。
  2. (省略)
  3. 2 Aは前項の遺贈の負担として、遺言者が負担する債務のうち、下記の債務を支払わなければならない。
  4.    ○○銀行○○支店に対する住宅ローンの残金


住宅ローン付の不動産を、住宅ローンを含めて遺贈する場合です。

ただし、債権者の承諾がなければ、受遺者が承継することにはならないので注意が必要です。

また抵当権の債務者の変更登記が必要になります。


遺贈する代わりに葬儀を実施してもらう場合

  1. 第○条 遺言者は、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号)に対して、下記の財産を遺贈する。
  2. (省略)
  3. 2 Aは前項の遺贈の負担として、遺言者の葬儀を主催し、葬儀後は、○○寺(○○県○○市○○町○丁目○番○号)にある○○家の墓地に埋葬しなければならない。また、○○寺には、永久供養の依頼をしなければならない。

葬儀は通常は相続人が行うものですが、相続人がいない、あるいは長年付き合いがなく、相続人以外の人に葬儀をしてもらいたい場合もあるかと思います。

そういった場合に、遺贈する代わりに葬儀を実施してもらう場合の例文です。


遺贈する代わりに賃料収入の一部を分配させる場合

収益不動産
  1. 第○条 遺言者は、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号)に対して、下記不動産を遺贈する。
  2. (省略)
  3. 2 Aは、前項の遺贈を受ける負担として、遺言者が死亡した日の属する月から遺言者の妻B(昭和○○年○月○日生)が死亡するまでの間、毎月末日限り、前項の不動産の賃貸により得られる賃料の内、○万円をBに支払わなければならない。

収益不動産を所有している場合、収益不動産を高齢の配偶者に相続させても管理することが難しいので、親族など信頼できる人に遺贈して、賃料の一部を配偶者が取得できるようにする方法です。

また、このような場合、負担付き遺贈ではなく、配偶者を受益者とする遺言信託を利用も考えられます。


遺贈する代わりに子どもの学費を援助してもらう場合

子ども
  1. 第○条 遺言者は、A(昭和○○年○月○日生、住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号)に対して、下記の財産を遺贈する。
  2. (省略)
  3. 2 Aは前項の遺贈の負担として、遺言者の長男B(昭和○○年○月○日生)が在学中の○○大学を卒業するまでの間、同人に対し、学費として月額○○万円を支払って、Bの学業を支援しなければならない。

未成年の子どもに遺贈しても管理が大変な場合があるので、親族など信頼できる人に遺贈して、その負担として受遺者に子どもの学費などを援助するという方法です。

ただし、この場合も負担付き遺贈ではなく、遺言信託の利用が考えられます。


負担付き遺贈の注意点

負担付き遺贈については次のような注意点があります。

  1.  ・負担付き遺贈は放棄が可能
  2.  ・民法で定める方式に従って作成しないと無効になる
  3.  ・受遺者が負担を履行しない場合にトラブルになる可能性がある


負担付き遺贈は放棄が可能

受遺者は、負担付き遺贈を放棄することが可能です。

受遺者としては、面倒な負担を履行するくらいなら遺贈はいらないという場合、放棄されてしまう可能性があります。

なので、できれば受遺者が負担付き遺贈を承諾するかどうかの意思を確認しておいた方がいいでしょう。


民法で定める方式に従って作成しないと無効になる

遺言は、民法で定める方式通りに作らないと無効になってしまいます。

自筆証書遺言(自分で手書きで書く遺言)の場合は、次の点を守らないといけません。

              1 本文を手書きで書く

              2 日付を書く(手書き)

              3 氏名を書く(手書き)

              4 印鑑を押す


その他の遺言の作成方法はこちらの記事をご覧ください。

  1. ・関連記事 遺言の書き方【遺言の文例と気を付けるポイント】


受遺者が負担を履行しない場合にトラブルになる可能性がある

相続トラブル

負担付き遺贈は、負担を履行する場合に財産を遺贈する遺言です。

しかし、負担が履行されなくても遺贈は当然には無効になりません。

もし、受遺者が負担を履行しない場合、遺言者の相続人や遺言執行者は、期間を定めて負担を履行するように催告をすることができます。

その期間内に負担の履行がないときは、その負担付遺贈についての遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条)。

しかし、遺言を取り消されない限り、負担は履行されず、遺贈だけが有効になってしまいます。

そのため、負担付き遺贈をする場合は、遺贈を受ける人と負担の内容を慎重に検討する必要があります。

受遺者が負担を履行しない場合に、履行するように請求することは相続人でもできますが、家族をトラブルに巻き込ませたくない場合は、念のため、司法書士などの専門家を遺言執行者に選任しておいた方がいいかもしれません。

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために働く人です。

遺言執行者については、別記事にまとめてありますので、ご覧ください。

  1. ・関連記事 遺言執行者とは?【遺言の内容を実現するために動く人】

 

不安な場合は専門家に相談できる

司法書士

負担付き遺贈は、普通の遺言と比べて複雑な遺言です。

こんな遺言でいいのだろうかと不安な場合は、司法書士などの専門家に相談しながら作成することをお勧めします。

大阪の方なら当事務所でも承っています。

当事者は大阪の司法書士・行政書士事務所です。

あなたの想いをお聴きし、その想いをご家族に伝えるお手伝いをさせていただきます。

当事務所の遺言書作成サポートサービスの詳細はこちらの記事をご覧ください。

  1. ・関連記事 田渕司法書士・行政書士事務所の遺言書作成サポートサービス

 

まとめ

以上、負担付き遺贈について解説しました。

負担付き遺贈は、通常の遺言とは違い、遺贈を受ける人に何らかの義務を負担させる遺言なので、慎重になってなかなか遺言を作る気になれないと思われるかもしれません。

また後で気が変わるかもしれないとか、後で事情が変わるかもしれないので、なかなか遺言を作る気になれないと思われるかもしれません。

しかし遺言は、何度でも作り直すことができます。

なので、あまり慎重になりすぎる必要はないかと思います。

当事務所のブログでは、ほかにも遺言についての記事を更新しています。

よろしければご覧ください。

  1. 遺言書作成についてアドバイス

 

というわけで今回は以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。