遺留分侵害額請求権とは何か【もし遺留分を侵害されたら】

「先日父が亡くなりました。父は全財産を、弟に遺贈する遺言を書いていました。まったく財産を相続できないのは納得できません。相続人には遺留分という権利があると聞きました。この場合に遺留分を請求することはできますか?」

相続人に関して不満がある人


こういった疑問にお答えします。

この場合は、侵害された遺留分の額に相当する金銭の支払いを請求することができます。

これを遺留分侵害額請求権といいます。

遺留分侵害額請求の制度は令和元年7月1日からスタートしましたが、それ以前は遺留分減殺請求権という制度がありました。

遺留分減殺請求権は、金銭の支払を請求するのではなく、遺贈や贈与された財産の返還を求める制度です。

なので、被相続人が令和元年7月1日より前にお亡くなりなった場合は、遺留分侵害額請求(金銭の請求)はできず、遺留分減殺請求(財産の返還の請求)をすることになります。

この記事では、遺留分侵害額請求権や遺留分減殺請求権の趣旨や請求方法などについて、わかりやすく解説します。

遺留分の額の計算方法については、こちらの記事をご覧ください。

・関連記事 遺留分とは?司法書士がわかりやすく解説【相続人の取り分】


目次

遺留分侵害額請求権とは何か【もし遺留分を侵害されたら】

遺留分侵害額請求権は、遺留分に相当する額の金銭を請求できる権利です。

事例で解説します。

たとえば、相続人が子ども1人の場合に、被相続人(亡くなった方)が唯一の財産である不動産(価額1000万円)を相続ではない第三者に遺贈したとします。

この場合、子どもの遺留分の割合は2分の1なので、遺留分侵害額として不動産を取得した第三者に対して500万円を請求することができます。

遺留分侵害額請求の図

 

この場合、請求できるのは金銭だけです。

不動産の権利の2分の1を請求することはできません。

被相続人が令和元年7月1日より前にお亡くなりなった場合は、遺留分侵害額請求はできず、遺留分減殺請求をすることになります。

遺留分減殺請求は、遺留分の割合に応じて、減殺の対象となった財産の返還を求めることができます。

たとえば上記の事例だと、遺留分の権利を有する子どもは、不動産に対して2分の1の持分の移転を主張することができます。

もっとも遺留分減殺請求をされた受遺者(遺贈を受けた人)や受贈者(贈与を受けた人)は、財産の返還の代わりにその財産の代金を支払うことができます(改正前民法1042条)。

遺留分侵害額を請求する方法

遺留分侵害額を請求する場合の手順は次の通りです。

まずは話し合い

 ↓

遺留分侵害額請求を内容証明郵便で出す

 ↓

支払わない場合、遺留分侵害額請求の家事調停

 ↓

調停が不成立の場合、遺留分侵害額請求の訴訟


遺留分侵害額を請求する方法1 まずは話し合い

話し合い

まずは、遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた人と、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うよう話し合います。

絶対に、じっくり話し合う前に内容証明を出すなどの行動に出てはいけません。

まだ話し合う余地があるのに、いきなり内容証明を出したせいで、相手を刺激して、余計に話がこじれてしまう場合があるからです。

なので、まず当事者同士で充分に話し合いをつくす必要があります。

話し合いで相手がすんなりと支払ってくれればいいのですが、支払ってくれない場合、内容証明を送ります。


遺留分侵害額を請求する方法2 遺留分侵害額請求を内容証明郵便で出す

内容証明

話し合いで相手が支払ってくれない場合、遺留分侵害額請求書を内容証明郵便で送ります。

内容証明郵便とは、出した手紙の内容を郵便局が証明してくれる郵便です。

なので相手方は「そんな手紙は受け取ってない」と主張することができません。

内容証明郵便の出し方については、郵便局のホームページをご覧ください。

・外部リンク 内容証明 | 日本郵便株式会社 (japanpost.jp)


遺留分侵害額請求書の書式を用意しましたので、お使いください。

遺留分侵害額請求書


令和元年7月1日より前に相続が開始した場合、遺留分減殺請求

令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合、遺留分減殺請求書を内容証明郵便で送ります。

遺留分減殺請求書の書式はこちらです。

遺留分減殺請求書


遺留分侵害額を請求する方法3 支払わない場合、遺留分侵害額請求の家事調停

調停

内容証明郵便を送っても支払わない場合、遺留分侵害額請求の家事調停を申し立てます。

家事調停とは、当事者だけでの話し合いでは解決しない場合に、家庭裁判所で調停委員という裁判所の職員を間にはさんで話し合いをする制度です。

調停委員が当事者同士の言い分を整理してくれるので、当事者だけではなかなか話し合いができないという場合でも、話し合いがまとまる場合があります。

また感情的になったせいで相手の言うことは冷静に聞けなくても、第三者の言うことなら冷静に聞くことができるという場合があり、そんな場合に家事調停を利用すれば話し合いがまとまることもあります。

遺留分侵害額請求の調停は申立書を記載して、添付書類を集めて、家庭裁判所に提出して申し立てます。

遺留分侵害額の請求調停申立書の書式はこちらです。

遺留分侵害額の請求調停申立書


申立書には、申立人と相手方の本籍、住所、氏名と、申立の理由などを記載します。

申立の理由は、具体的な事情を記載しましょう。

たとえば、次のように記載します。

1 Cは令和〇年〇月〇日に亡くなりました。

2 Cの相続人は、Cの子である申立人Aと相手方Bです。

3 Cは、その財産である別紙遺産目録記載の土地と建物(以下「本件物件」という)のすべてを相手方に相続させる遺言をしました。

4 前記遺言は申立人の遺留分を侵害するので、相手方に対し、令和〇年○月〇日付内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をし、同書面は〇日に到達しました。

5 本件物件は相手方が居住しており、現物分割は困難です。

6 本件物件の価額は金3000万円です。

7 Cの遺産には本件物件のほか銀行預金600万円があり、この預金は申立人がすべて相続しました。

8 よって、申立人は相手方に対し、遺留分の侵害額の支払として、遺産総額の3600万円の遺留分4分の1に相当する金900万円から申立人が相続した600万円を差し引いた金300万円の支払を求めます。


遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類

書類

遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類は次の通りです。

・被相続人の、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本すべて

・相続人全員の戸籍謄本

・被相続人の子で死亡している人がいる場合、その子の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本すべて

・不動産登記事項証明書(登記簿謄本)

・遺言書の写しまたは、遺言書の検認調書謄本の写し

・遺留分侵害額請求書


このほかにも裁判所から必要な書類の提出が求められる場合があります。


遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類1 被相続人の、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本すべて

被相続人(亡くなった方)の戸籍は、被相続人の本籍地の役所で取得できます。

戸籍謄本を請求する際に、「生まれてから亡くなるまでの戸籍すべてをお願いします」などとメモ書きして渡すと、その役所にある戸籍のすべてを出してもらえます。

本籍地がわからない場合、住所地の役所で本籍地入りの住民票を取得すれば本籍地がわかります。

戸籍謄本の集め方については、こちらの記事をご覧ください。

・関連記事 相続に必要な戸籍謄本の集め方、古い戸籍の読み方


遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類2 相続人全員の戸籍謄本

相続人が被相続人と同じ戸籍に入っている場合は、別途その相続人の戸籍謄本は不要です。


遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類3 被相続人の子で死亡している人がいる場合、その子の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本すべて

被相続人の子で死亡している人がいる場合、その子の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本すべてが必要になります。

また、被相続人の子の代襲者(被相続人の孫)で死亡している人がいる場合、その方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本すべてが必要になります。


遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類4 不動産登記事項証明書(登記簿謄本)

遺産の中に不動産がある場合、不動産の登記簿謄本が必要です。

不動産の登記簿謄本は、法務局で取得できます。


遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類5 遺言書の写しまたは、遺言書の検認調書謄本の写し

遺言書のコピーが必要です。

また遺言書の検認の調書謄本でも構いません。

遺言の検認につきましては、こちらの記事をご覧ください。

・関連記事 遺言書の検認手続きの流れをわかりやすく解説します


遺留分侵害額の請求調停申立書の添付書類6 遺留分侵害額請求書

調停を申し立てる前に内容証明郵便で送った遺留分減殺請求書があれば、それも提出します。


遺留分侵害額の請求調停の申立先

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

たとえば、相手方が大阪市在住の場合、大阪家庭裁判所になります。

また、当事者が管轄について合意がある場合は、その裁判所に申し立てることもできます。

管轄については家庭裁判所のホームページをご覧ください。

・外部リンク 裁判所の管轄区域


遺留分侵害額の請求調停の申立費用

遺留分侵害額の請求調停を申し立てるには、郵便切手と、1200円の収入印紙が必要になります。

郵便切手は、いくら分必要なのかは各裁判所で異なりますので、申し立てる家庭裁判所にお問い合わせください。

収入印紙は申立書に貼り付けて提出します。


遺留分減殺による物件返還請求の調停申立

令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合は、遺留分減殺による物件返還請求の調停申立を行います。

遺留分減殺による物件返還請求の調停も、申立書を記載して、添付書類を集めて、家庭裁判所に提出して申し立てます。

遺留分減殺による物件返還請求の書式はこちらです。

遺留分減殺による物件返還請求調停申立書


申立書には、申立人と相手方の本籍、住所、氏名と、申立の理由などを記載します。


遺留分侵害額を請求する方法4 調停が不成立の場合、遺留分侵害額請求の訴訟

遺留分についての調停で合意ができない場合、遺留分を主張するためには地方裁判所に対して民事訴訟を提起して、遺留分を主張しないといけません。

もしここでも合意ができない場合でも、当事者双方の言い分を聴いて裁判所が確定的な判断を下します。

調停までであれば、必要書類の作成さえできれば弁護士をたてずに自分で行うことも十分できますが、民事裁判まで進むと弁護士を代理人にすることも検討した方がいいでしょう。


遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権はいつでも請求できるわけではなく、一定の期間が過ぎると消えてしまいます。

これを時効といいます。

遺留分侵害額請求権の時効は、「相続の開始と、遺留分を侵害する贈与や遺言を知った時」から1年です(民法1048条)

被相続人が亡くなり、不公平な遺言あることを知ったら、その日から1年以内に請求しないと権利が消滅してしまって、遺留分の請求できなくなってしまいます。

また、被相続人が亡くなってから10年が経過した場合も、権利が消滅します。相続があったことを知らないまま10年経つと、遺留分の請求はできなくなってしまいます。


遺留分を侵害する贈与や遺贈が複数ある場合

遺留分を侵害する贈与や遺贈が複数ある場合、誰に遺留分侵害額請求をするかが問題になります。

これに関しては、次の通りに請求することになります。

1 遺贈と生前贈与がある場合、まず遺贈を受けた受遺者に対して、遺留分侵害額請求を行い、それでも遺留分の額に足りない場合は、贈与をうけた受贈者に請求する

2 贈与を受けた受贈者が複数いる場合は、後の贈与を受けた受贈者から順次前の贈与を受けた受贈者に対して請求する。

3 遺贈を受けた受遺者が複数いるとき、または贈与を受けた受贈者が複数いてその贈与が同時にされた場合は、価額の割合に応じて請求する。ただし遺言を書いた人がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。


まとめ

以上、遺留分侵害額請求権について解説しました。

まとめると次の通り。

・遺留分侵害額請求権は、遺留分に相当する金銭を請求できる権利

・遺留分侵害額の請求手続きは、まず相手と話し合い、支払わない場合は遺留分侵害額請求書を内容証明郵便で送り、家事調停を経て解決しない場合は訴訟を提起する。

・請求時効は相続開始から遺留分を侵害する贈与や遺言を知った時から1年間であり、10年を過ぎると請求できなくなる。

 

相続が発生したときに必要な手続きについて、こちらの記事にまとめてありますのでこちらもご覧ください。

・関連記事 相続の流れのまとめ【相続したときにやらなければいけないこと】


では今回は以上です。

お読みいただきありがとうございました。

 

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