遺言があっても遺産分割協議できる?【基本的にはできます】
「先日父が亡くなり、私と母が相続人になりました。父は遺産のすべてを母に相続させる遺言を遺していました。しかし、母と話し合った結果、自宅の土地建物は母が、預金は私が相続した方がいいという話になりました。遺言と異なる内容の遺産分割協議はできますか?」
大阪の司法書士・行政書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合うことです。
この記事では、遺言があっても遺産分割協議を行いたい方向けに、遺言がある場合に遺産分割協議できるかについて司法書士がわかりやすく解説します。
目次
遺言があっても遺産分割協議できる?【基本的にはできます】
遺言があっても、基本的には遺産分割協議することができます。
遺言には、様々なことを記載することができますが、次のことが記載されていることがほとんどです。
・遺産分割方法の指定
・相続分の指定
・遺贈
遺産分割方法の指定とは、読んで字のごとく遺産分割の方法を遺言で指定するものです。
相続分の指定とは、相続人それぞれの相続分を指定するものです。
遺贈とは、相続人や相続人以外の第三者に遺言で贈与するものです。
それぞれの場合で遺産分割協議できるか詳しく解説します。
遺言の内容が遺産分割方法の指定だった場合に遺産分割協議できるか
遺産分割方法の指定とは、相続人が遺産をどう分けるかについて指定するものです。
たとえば「長男Aには不動産を、 次男Bには預貯金および現金を取得させる」 というように、 どの財産をどの相続人に承継させるのかを指定するものです。
遺産分割協議は、亡くなった方が遺言で遺産分割方法を指定していなかった場合に、遺産をどう分けるか話し合うものです。
なので遺言の内容が遺産分割方法の指定だった場合、遺産分割協議する必要はなく、遺言の記載の通りに遺産を分けることになります。
ただ相続人全員が遺言の内容に納得していない場合は、遺産分割協議することも基本的にはできます。
しかし遺言執行者がいる場合は、少し問題があります。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるために必要な手続きを行う人のことです。
・関連記事 遺言執行者とは?【遺言の内容を実現するために動く人】
遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産の処分など遺言の執行を妨げるような行為をすることができないとされています(民法1013条)。
そのため、遺言執行者がいる場合は遺産分割協議をすることができないとする考え方もあります。
とはいえ、相続人全員が遺言と異なる内容の遺産分割を望んでいるのにそれを認めないのは不合理です。
そこで遺言執行者の了解を得ることで、遺言と異なる内容の遺産分割をすることができるという説が有力です。
遺産分割協議についてはこちらもご覧ください。
・関連記事 遺産分割協議とは何か?【遺産の分け方についての話し合い】
遺言の内容が相続分の指定だった場合に遺産分割協議できるか
相続分の指定とは、相続人それぞれの相続分を指定するものです。
たとえば「妻Aに遺産の50%、長男Bに30%、次男Cに20%を与える」というような遺言です。
遺言で相続分が指定されていますが、どう遺産分割するかまでは書かれていないので、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。
遺言の内容が遺贈だった場合に遺産分割協議できるか
遺贈とは、遺言で相続人や第三者に贈与することです。
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります(民法964条)。
包括遺贈とは、財産全体の割合を遺贈するものです。
たとえば、「遺産の半分を○○に遺贈する」とか「遺産の全部を○○に遺贈する」という遺言です。
特定遺贈とは、特定の財産を遺贈するものです。
たとえば、「自宅の土地建物を○○に遺贈する」という遺言です。
遺産分割方法の指定と遺贈の違いですが、基本的には「相続させる」と書いてあれば遺産分割方法の指定で、「遺贈させる」と書いてあれば遺贈です。
ただし、相続人ではない人(たとえば、別れた前妻など)に対して「相続させる」と書いてある場合は、遺贈になります。
くわしくは、こちらの記事をご覧ください。
・関連記事 相続と遺贈の違いは?
それでは遺言に記載されているのが、特定遺贈の場合、包括遺贈の場合で、それぞれ遺産分割協議できるかについて見ていきましょう。
包括遺贈がされたとき
「遺産の半分を○○に遺贈する」とか「遺産の全部を○○に遺贈する」というような遺言の場合です。
遺贈の場合、遺贈された財産については遺産分割する余地はありません。
遺贈された財産は、遺贈を受けた人の財産になるためです。
しかし、包括遺贈を受けた人が相続放棄することで、遺贈された財産についても遺産分割することができます。
包括遺贈を受けた人は、相続人と同一の権利義務を有するとされています(民法990条)。
つまり包括遺贈を受けた人は相続人と同様に扱われるということです。
そのため包括遺贈を受けた人は相続人ではなくても、相続放棄することができます。
相続放棄することで、遺贈された財産についても遺産分割できるようになります。
ただし相続放棄を行うと、はじめから相続人ではなかったものとみなされるため(民法939条)、包括遺贈を受けた人については遺産を取得できなくなります。
ほかの相続人は遺産分割により遺産を取得することができますが、包括遺贈を受けた人にも遺産の一部を取得させるような遺産分割をすることはできないということです。
相続放棄の手続きについては、こちらをご覧ください。
・関連記事 相続放棄の手続きをわかりやすく解説【必要書類や注意点など】
特定遺贈がされたとき
「自宅の土地建物を○○に遺贈する」というような遺言の場合です。
特定遺贈についても、遺贈された財産は遺産分割する余地はありません。
ただし特定遺贈を受けた人が遺贈を放棄することで、遺贈された財産についても遺産分割することができるようになります。
特定遺贈については、いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。
包括遺贈の場合の相続放棄と違って、はじめから相続人ではなかったものとみなされることもありません。
そのため特定遺贈を受けた人が相続人の場合は、遺贈を放棄することで、相続人全員(特定遺贈を受けた相続人も含む)で遺贈された財産を含めた財産全体について遺産分割することができます。
遺言書がある場合の遺産分割協議書の書き方
遺言がある場合の遺産分割協議書には、遺言の内容を記載した上で、相続人の全員の合意によって遺言の内容と異なる遺産分割を行うことを明記するべきです。
遺産分割協議は全員が同意しないと成立しません。
一人でも遺言の存在を知らない相続人がいた場合、「もし遺言の存在を知っていたら遺産分割協議に同意しなかった」と後でその相続人が主張した場合、遺産分割協議が無効になる可能性があります。
そのようなトラブルを防ぐためにも、ちゃんと遺言の存在と内容を認識した上で、遺言と異なる内容の遺産分割協議をするということを遺産分割協議書に記載しておきましょう。
遺言がある場合の遺産分割協議書のひな形はこちらです。
細かい部分はそれぞれケースバイケースですので、それぞれの事情に合わせて作成してください。
よくわからない場合は、司法書士などの専門家に相談してください。
遺産分割で不動産を承継した場合、相続登記しないと権利を失う場合があります
相続した不動産の名義変更のことを相続登記といいます。
遺産分割で不動産を承継した場合、相続登記しないと権利を失う場合があるので注意が必要です。
遺産分割などで法定相続分を超える持分を取得した場合は、相続登記しないと、その持分を第三者に主張することができません。
たとえば父が亡くなり、相続人が子ふたり(長男、次男)で、「長男が不動産を相続する」旨の遺産分割協議をした場合です。
この場合に、長男名義への相続登記をしないまま放置している間に、次男が、勝手に子ふたりの名義(長男持分1/2、次男持分1/2)の相続登記をした後、次男の持分1/2を第三者に移転する登記をしたときは、長男はその1/2の持分について、その第三者に権利を主張することができません。
その結果、長男は不動産の1/2の権利を失うことになります。
第三者としては、登記を信頼して取引したのに、後で次男は正当な権利者ではないので、権利を取得できませんと言われたら、納得できません。
そこで、法律では、登記しないまま放置した長男より、登記を信用して取引した第三者を優先することにしています。
だから、相続登記することが必要なのです。
遺言で取得した場合も同じです。
相続登記の手続きについては別記事にくわしくまとめてありますので、ぜひご覧ください。
・関連記事 相続登記の手続を司法書士が解説【不動産の名義変更】
まとめ
以上、遺言がある場合の遺産分割協議について解説しました。
当事務所では、相続・遺言に関する相談を行っています。
当事務所は、大阪市の司法書士・行政書士事務所です。
相続、遺言に関する相談は相談料無料ですので、お気軽にご相談ください。
ご相談の方は、電話(06-6356-7288)か、こちらのメールフォームからお問い合わせください。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。