代表取締役の選任手続きをわかりやすく解説します【ひな型付き】

「長年、会社の代表取締役を務めてきましたが、息子に継がせたいと思っています。しかし、ずっと私が会社の代表取締役だったので、代表取締役の選任手続きがわかりません。代表取締役の選任手続きについて教えてください」


こういった疑問にお答えします。

この記事では、代表取締役の選任手続きがわからなくて困っている方に向けて、司法書士が代表取締役の選任手続きについて、わかりやすく解説します。

この記事を読むと、代表取締役の選任手続きが行えるようになります。


代表取締役の選任手続きをわかりやすく解説します

CEO

代表取締役は次のような手順で選任します。

  1. 前任の代表取締役の退任
  2.    ↓
  3. 代表取締役の選定
  4.   ↓
  5. 代表取締役の就任
  6.   ↓
  7. 代表取締役の就任の登記


前任の代表取締役の退任

まず前任の代表取締役の退任です。

ただし代表取締役の人数に上限はないので、現在の代表取締役が退任しなくても新たに代表取締役を選任することはできます。

代表取締役の退任事由は次の通りです。

  1. ・取締役の地位の喪失
  2. ・辞任
  3. ・解職
  4. ・任期満了


代表取締役の選定

取締役会を置いているかどうかで、代表取締役を選定する方法が異なります。


取締役会を置く会社の代表取締役の選定

取締役会を置く会社の場合、取締役会が取締役の中から代表取締役を選定します(会社法362条3項)。

取締役でない人を代表取締役にすることはできません。

なので取締役ではない人を代表取締役にするためには、まず取締役会で取締役に選任する必要があります。

また取締役会を置く会社も、定款で定めることで、株主総会で代表取締役を選定することができます(会社法295条2項参照)。

この場合、定款には次のように記載します。

  1. ・第〇条 代表取締役は、株主総会の決議で定める。

ただし、株主総会で代表取締役を選定する旨を定款で定めても、取締役会でも代表取締役を選定することはできます。

取締役会の選定権限を奪うことはできません。


取締役会を置かない会社の代表取締役の選定

取締役会を置かない会社の場合、取締役は各自、株式会社を代表します(会社法349条2項)。

ただし取締役会を置かない会社の場合でも、次のいずれかの方法で代表取締役を選定することができます(会社法349条3項)。

  1. ・定款
  2. ・定款の定めに基づく取締役の互選
  3. ・株主総会の決議


定款
定款

定款で直接、代表取締役を定めることができます。

定款には次のように記載します。

  1. 第〇条 当会社の代表取締役は次の通りとする。
  2. 大阪府○○市○○1丁目○○番○○号
  3. ○○○○


この方法では、代表取締役が交代するたびに定款変更が必要になります。

定款を変更するには、株主総会の特別決議が必要になります。

  1. ・関連記事 株主総会の決議事項を解説します【普通決議 特別決議 特殊決議】


定款の定めに基づく取締役の互選

定款の定めに基づいて、取締役の互選で代表取締役を選定する方法です。

定款には次のように記載します。

この定めに基づいて、取締役が互選で代表取締役を選定します。

この場合、取締役の互選書を作成して、取締役全員が押印します。


なお定款に互選で代表取締役を選定する定めを置いていない会社が、互選で代表取締役を選定する定めを置く場合、定款変更になりますので、株主総会の特別決議が必要になります。

定款の定めに基づく取締役の互選で代表取締役を選定する会社は、定款を変更しない限り、株主総会の決議で代表取締役を選定することはできません(登記研究210号P56、登記研究244号P70)。


株主総会の決議
株主総会

定款に取締役の互選で代表取締役を選定する旨の定めがなく、定款で直接、代表取締役を定めていない場合、株主総会の決議で代表取締役を選定することができます。


代表取締役の予選

代表取締役は予選することができます。

予選とは、将来就任する予定の代表取締役をあらかじめ選任しておくことです。

たとえば、取締役が忙しいため、取締役を改選する定時株主総会の後に取締役会を開催できないような場合、定時株主総会より前に代表取締役をあらかじめ選任することができます。

就任する日の1カ月前程度であれば代表取締役を予選する決議は有効とする先例があります(昭和41年1月20日民事甲271号)。

ただし、改選する前の取締役が代表取締役を予選する場合、株主総会で取締役が全員再任されて取締役に変動が生じない場合に限られますので注意が必要です(登記研究701号P207)。


代表取締役の就任

次の選定方法の場合、選定しただけでは代表取締役に就任せず、就任承諾の意思表示が必要です。

  1. ・取締役会を置かない会社で、定款の定めに基づく取締役の互選で選定
  2. ・取締役会を置く会社で、取締役会で選定


この場合、就任承諾書の作成が必要になります。

取締役会を置かない会社が次の方法で代表取締役を選定する場合、代表取締役の就任承諾の必要はありません。

  1. ・各自代表
  2. ・定款
  3. ・株主総会の決議


代表取締役の就任の登記

代表取締役は登記事項ですので、代表取締役が就任すると登記申請が必要になります。

代表取締役の就任登記の申請書のひな形はこちらです。

登記申請書


取締役の任期が満了したタイミングで取締役が全員重任して、新たに代表取締役を選任するケースです。

代表取締役が辞任して、新たに代表取締役を選任する場合は、登記すべき事項は、

「年月日代表取締役○○辞任」

「年月日次の者代表取締役就任」

などと記載します。

会社の実情に合わせて作成してください。

 

添付書類

書類

添付書類は次の通りです。

  1. ・株主総会または種類株主総会の議事録
  2. ・株主リスト
  3. ・就任承諾書
  4. ・印鑑証明書

 

株主総会または種類株主総会の議事録

取締役を選任した株主総会または種類株主総会の議事録です。

取締役でない人を代表取締役に選任するためには、まず取締役に選任する必要があるため、取締役の選任を証明するために株主総会議事録が必要になります。

また取締役の任期が満了して再任される場合も、取締役の重任の登記をするために株主総会議事録が必要になります。

取締役の任期は満了せず、代表取締役のみ変わる場合は、取締役の選任についての株主総会議事録は不要です。

株主総会議事録のひな型はこちらです。

実情に合わせて作成してください。

  1. 株主総会議事録


株主リスト

株主の名簿です。

株主総会の決議によって登記事項が変更した場合に、必要となる書類です。

株主リストには、次の事項を記載します。

  1. ・株主の氏名、名称
  2. ・住所
  3. ・株式数(種類株式発行会社は,種類株式の種類及び数)
  4. ・議決権の数
  5. ・議決権数の割合


株主全員の分を記載する必要はありません。

  1. ・議決権の数が上位10名の株主
  2. ・議決権の割合が2/3に達するまでの株主 


いずれか少ない方でよいとされています。

株主リストのひな形はこちらです。

  1. 株主リスト


代表取締役の選任を証する書面

代表取締役の選任を証する書面として、次の書類が添付書類になります。


取締役会を置かない会社
  1. ・定款で代表取締役を定めたときは、定款変更を決議した株主総会議事録
  2. ・株主総会の決議で代表取締役を定めたときは、株主総会議事録
  3. ・定款の定めに基づいて取締役の互選で代表取締役を定めたときは、定款と互選書


互選書のひな形はこちらです。

  1. 互選書


互選書の記名押印は新しい代表取締役がします。


取締役会を置く会社
  1. ・取締役会で代表取締役を定めたときは、取締役会議事録
  2. ・定款の定めに基づいて株主総会で代表取締役を定めたときは、定款と株主総会議事録


取締役会議事録のひな形はこちらです。

  1. 取締役会議事録


就任承諾書

代表取締役の就任承諾書です。

ひな形はこちら。

  1. 就任承諾書


印鑑証明書
印鑑証明書

取締役会を置く会社は、代表取締役の就任承諾書に押印した印鑑についての証明書を添付する。

取締役会を置かない会社は、取締役の就任承諾書に押印した印鑑についての証明書を添付する。


代表取締役の権限

代表取締役は、会社の業務に関する一切の権限を有します(会社法349条4項)。

この権限を内部的に制限しても、そのことを知らない第三者には主張できません(会社法349条5項)。

たとえば代表取締役が契約を締結する際には、代表取締役aだけでなく、取締役bの同意が必要と内部で取り決めても、それを知らないで取引した取引先には無効を主張できず、契約は有効になります。


代表取締役ではないのに代表取締役であるかのような名称をつけた場合

代表取締役でない取締役に、代表取締役であるかのような肩書(たとえば社長や副社長など)を与えた場合、そのことを知らず代表取締役と信じて取引をした第三者に対しては、取引が無効であると主張できず、会社は責任を負わないといけないので、注意が必要です(会社法354条)。

なので、代表取締役でない取締役に、社長などの肩書を付けるのはやめておいた方がいいでしょう。


まとめ

以上、代表取締役の選任について解説しました。

当事務所は大阪の司法書士・行政書士事務所です。

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というわけで今回は以上です。

お読みいただきありがとうございました。