【遺言書】夫と妻がお互いに全財産を相続させる遺言の書き方
「私たち夫婦には、子どもが二人(長男、長女)います。子ども2人は、すでに独立して収入もそれなりにあるため、生活に不安はありません。なので、私たち夫婦のどちらかが先に亡くなったときは、残った方にすべての財産を相続させたいのですが、そのような遺言を書くことはできますか?」
大阪の司法書士・行政書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
そのような遺言を書くことはできます。
しかし、遺言は2人以上の人が同一の証書ですることができないとされています(民法975条)。
なので、夫と妻は別々に遺言書を作成しないといけません。
この記事では、夫と妻がお互いに全財産を相続させる遺言の書き方について解説します。
遺言の基本的な書き方については、別記事にまとめてありますので、こちらをご覧ください。
・関連記事 遺言の書き方【遺言の文例と気を付けるポイント】
目次
【遺言書】夫と妻がお互いに全財産を相続させる遺言の書き方
夫と妻がお互いに全財産を相続させる場合の遺言のひな形は次の通りです。
ただし遺言は、それぞれの事情に合わせて作成するものですのでご注意ください。
不安な方は専門家に相談しながら作成することをおすすめします。
遺言書
第1条 遺言者○○○○は、遺言者の有する下記の不動産を遺言者の妻○○○○(昭和○○年○月○日生)に、相続させる。
(不動産表示)
土 地
所 在 大阪市○○区○○町○丁目
地 番 ○○番○○
地 目 宅地
地 積 ○○.○○㎡
建物
所 在 大阪市○○区○○町○丁目○○番地○○
家屋番号 ○○番○○
種 類 居宅
構 造 鉄骨造スレート葺3階建
床面積 1階 ○○.○○㎡
2階 ○○.○○㎡
3階 ○○.○○㎡
第2条 遺言者は、遺言者の有する現金並びに次の預貯金の表示記載の金融資産のすべてを、遺言執行者をして適宜の順序方法で換価処分させて上、その換価金から、遺言者の葬儀費用、未払の公租公課その他の債務、遺言執行費用等の諸費用を控除して支出させ、その残余金のすべてを前記○○○○に相続させる。
(預貯金の表示)
次の金融機関又は自宅などに存する遺言者名義の預貯金等のすべて
○○銀行 ○○支店
預金 普通預金
口座番号 ○○○○○○○
○○銀行 ○○支店
貯金 普通預金
口座番号 ○○○○○○○
上記以外のその他の金融機関
第3条 遺言者は、上記財産を除いた遺言者が有する全ての財産を、前記○○○○に相続させる。
第4条 もし遺言者より前にまたは遺言者と同時に妻○○○○が亡くなっていた場合、遺言者は第1条記載の不動産を子○○○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させ、第2条記載の現金、預貯金を子○○○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
(祭祀)
第5条 遺言者は、遺言者の祭祀の主宰者として、前記○○○○を指定し、同人に祭祀用財産の一切を承継・管理させる。
(執行者)
第6条 遺言者は、この遺言の執行者として、次の者を指定する。
大阪市○○区○○町○丁目○番
○○○○
昭和○○年○月○○日
連絡先○○○-○○○○-○○○○
2 遺言執行者は、下記の権限を有するものとする。なお、この権限の行使に当たり、他の相続人の同意は不要である。
・遺言者の不動産、預貯金、有価証券その他の相続財産の名義変更、解約及び払戻等
・貸金庫の開扉、解約、及び内容物の収受
・遺言者の債務の弁済
・その他本遺言を執行するために必要な一切の処分を行うこと
3 遺言執行者は、必要なとき、他の者に対してその任務の全部又は一部を行わせることができる。
(付言事項)
遺言するに当たって一言申し述べておきます。
相続が円満円滑に行われるようにと思い、遺言書を残しましたので、皆が協力して手続きを行ってくれるようお願いいたします。
以 上
以上は、夫が妻に財産をすべて相続させる場合です。
妻についても、別に遺言を作成する必要があります。
夫と妻がお互いに全財産を相続させる場合の注意するポイント
夫と妻がお互いに全財産を相続させる遺言について、次の注意するポイントがあります。
・財産の特定
・遺留分
・予備的遺言
・遺言執行者
・公正証書遺言
夫と妻がお互いに全財産を相続させる場合の注意するポイント1 財産の特定
相続させる財産の内容については、できるだけ特定していることが望ましいです。
もっとも遺言を書いて以降も財産が変動することはあります。
そのため上記の遺言書の記載例の第3条のように、「遺言者は、上記財産を除いた遺言者が有する全ての財産を、前記○○○○に相続させる」としています。
不動産については、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載の通りに記載しないといけません。
・関連記事 登記事項証明書の取り方を司法書士がわかりやすく解説
銀行預金などについては、銀行の支店名、預金の種類、口座番号を記載すればよく、金額までは記載する必要はありません。
夫と妻がお互いに全財産を相続させる場合の注意するポイント2 遺留分
遺留分とは、相続人に残しておくべき最低限の取り分のことです。
この遺留分は、遺言を書いた人でも奪うことができない相続人の権利になります。
・関連記事 遺留分とは?司法書士がわかりやすく解説【相続人の取り分】
たとえば、相続人が妻と子ども2人の場合、子ども2人はそれぞれ8分の1ずつの遺留分を有しています。
なので、この場合に妻に全財産を相続させる遺言を書くと、子ども2人の遺留分を侵害します。
相続人の遺留分を侵害する遺言は無効ではありません。
しかし、遺留分を有する相続人は、財産を承継した人に対して遺留分に相当する金銭を請求することができます(民法1046条1項)。
そのため、この場合は妻と子どもの間でトラブルに可能性があります。
親子間の仲が良く、妻(または夫)が全財産を相続することに、子どもたちが納得しているような場合は問題ありませんが、トラブルになる可能性がある場合は、このような遺留分を侵害する遺言を書くことは避けた方がいいでしょう。
夫と妻がお互いに全財産を相続させる場合の注意するポイント3 予備的遺言
夫と妻、どちらが先に亡くなるかはわかりませんので、予備的遺言の条項を入れておいた方がいいでしょう。
予備的遺言とは、相続させる人が遺言者(遺言を書いた人)より先に亡くなった場合に備えて、次に相続する人を指定しておく遺言です。
・関連記事 予備的遺言とは【相続させる人が先に亡くなった場合に備える遺言】
夫と妻がお互いに全財産を相続させる遺言を書いた場合、妻の方が亡くなると妻の財産は夫がすべて相続することになります。
しかし、そのあと夫が亡くなると、夫の遺言は、相続するはずの妻がすでに亡くなっているので効力が発生せず、そのまま法定相続することになります。
上記の事例のケースでは、夫の財産は子ども2人が半分ずつ相続することになり、子ども2人が相続財産をどう分けるか話し合うことになります(遺産分割協議)。
子ども同士の仲が良くないと話し合いがすすまず、トラブルになる可能性があります。
そうならないように、妻(または夫)に全財産を相続させるとする一方、自分より先に妻(または夫)が亡くなった場合は、子どもに相続させる財産を指定しておくことが望ましいです。
夫と妻がお互いに全財産を相続させる場合の注意するポイント4 遺言執行者
遺言を書くときは、遺言執行者について記載しておくといいでしょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために動く人のことです。
・関連記事 遺言執行者とは?【遺言の内容を実現するために動く人】
遺言執行者は、相続人など親族でもいいですし、司法書士などの専門家でも構いません。
夫と妻がお互いに全財産を相続させる場合の注意するポイント5 公正証書遺言
遺言には、自分が手書きで書く自筆証書遺言と、公証人が作成し公証役場で保管する公正証書遺言があります。
・関連記事 公正証書遺言と自筆証書遺言どっちがいい?【公正証書遺言がお勧め】
このうちおすすめなのが公正証書遺言です。
公正証書遺言は費用が余計にかかりますが、遺言が無効になるリスクが少なくなりますし、公証役場で保管されるので紛失や破棄されることはありません。
ですので、できれば公正証書遺言で作成することが望ましいです。
まとめ
以上、夫と妻がお互いに全財産を相続させる遺言の書き方について解説しました。
遺言については、法律に定められた様式に違反していたり、記載が法律に反していたなどで無効になるリスクがあります。
そうならないように専門家に相談しながら書くことをおすすめします。
大阪の方なら、当事務所でも承っています。
・関連記事 田渕司法書士・行政書士事務所の遺言書作成サポートサービス
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。