権利能力なき社団の代表者が変更したときの登記手続き
「私は、あるボランティア団体の代表をしています。このボランティア団体が不動産を所有していますが、この不動産は前の代表者名義で登記されています。名義変更したいのですが、団体名義で登記することはできますか?」
大阪の司法書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
ボランティア団体など、法人化していない団体のことを権利能力なき社団といいます。
権利能力なき社団名義は、登記名義人になることはできません。
代表者個人の名義で登記する必要があります。
この場合は、前代表者から現在の代表者へ所有権移転登記が必要になります。
この記事では、権利能力なき社団の代表者が変更したときの登記手続きについて司法書士がわかりやすく解説します。
目次
権利能力なき社団の代表者が変更したときの登記手続き
権利能力なき社団とは、法人化されていない団体のことです。
たとえば、同窓会、サークル、町内会などの団体を指します。
これらの団体も法人化することができますが、法人化していない場合は権利能力なき社団になります。
法人であれば登記名義人になることができますが、権利能力なき社団名義では登記することはできません。
そのため、構成員全員名義で登記するか、代表者個人名義で登記するしかありません。
構成員全員の名義とすると、構成員が変わるごとに名義変更しないといけなくなるため、代表者個人名義で登記されることがほとんどです。
また代表者個人の名義で登記する場合でも、社団の代表者である旨の肩書を付けることはできません。
このことを明らかにした判例があります。
権利能力なき社団の資産たる不動産については、社団の代表者が、社団の構成員全員の受託者たる地位において、個人の名義で所有権の登記をすることができるにすぎず、社団を権利者とする登記をし、または、社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人名義の登記をすることは、許されないものと解すべきである。(最判昭和47年6月2日)
登記名義人である権利能力なき社団の代表者が交代すると、新代表者は、旧代表者に対して、その不動産について自己の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求めることができます(最判昭和47年6月2日)。
権利能力なき社団を代表して登記名義人になっているだけで、不動産はあくまで権利能力なき社団が所有しており、代表者個人の財産ではないからです。
権利能力なき社団の代表者が交代した場合の所有権移転登記手続き
登記名義人である権利能力なき社団の代表者が交代した場合の登記手続きは、次の手順で行います。
申請書の作成
↓
添付書類の収集、作成
↓
法務局へ申請
↓
登記識別情報(権利証)の受け取り
権利能力なき社団の代表者が交代した場合の所有権移転登記手続き1 申請書の作成
まずは登記申請書を作成します。
権利能力なき社団の代表者が交代した場合の登記申請書は次の通りです。
登記申請書
登記の目的 所有権移転
原因 令和〇年〇月〇日委任の終了
権利者 大阪市都島区○○町○丁目○番地
B
(連絡先の電話番号 ○○○-○○○○-○○○○)
義務者 大阪市都島区○○町○丁目○番地
A
(連絡先の電話番号 ○○○-○○○○-○○○○)
添付書類 登記原因証明情報 登記識別情報/登記済証
印鑑証明 住所証明書
令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局〇〇出張所 御中
課税価格 金〇円
登録免許税 金〇円
不動産の表示
(省略)
不動産番号○○○○○○○○○○○○〇
登記原因は「委任の終了」です。
日付は、新代表者が就任した日です。
権利者には新代表者の住所氏名を、義務者には旧代表者の住所氏名を記載します。
課税価格は、納税通知書か評価証明書に記載されています。1000円未満は切り捨てます。
登録免許税は、課税価格×20/1000です。ただし、100円未満は切り捨てます。
不動産の表示は、登記事項証明書(登記簿謄本)を見て、正確に記載してください。
・関連記事 登記事項証明書の取り方を司法書士がわかりやすく解説
権利能力なき社団の代表者が交代した場合の所有権移転登記手続き2 添付書類の収集、作成
権利能力なき社団の代表者が交代した場合の添付書類は次の通りです。
・登記原因証明情報
・登記識別情報または登記済証(権利証)
・印鑑証明書
・住所証明情報
・法務局へ申請
権利能力なき社団の代表者が交代した場合の所有権移転登記手続き3 法務局へ申請
申請書と添付書類を法務局に提出して申請します。
法務局には不動産の所在地ごとに管轄が決められています。
管轄は法務局のホームページでご確認ください。
・外部リンク 管轄のご案内
権利能力なき社団の代表者が交代した場合の所有権移転登記手続き4 登記識別情報(権利証)の受け取り
法務局に申請してから、1~2週間ほどで登記識別情報(権利証)ができあがります。
権利証を受け取ったら、大事に保管してください。
権利証は紛失しても不動産の権利を失うわけではありませんが、多少面倒な手続きが増えますので、失くさないようにしてください。
法人化すれば法人名義で登記することができる
権利能力なき社団名義で登記することはできませんが、法人化すれば法人名義で登記することができます。
権利能力なき社団の代表者個人の名義で登記されていると、登記簿を見ても、代表者個人が所有している不動産に見えてしまいます。
団体名や代表者の肩書などが記載されていないためです。
また代表者が交代するたびに名義変更が必要になってしまいます。
法人化して法人名義にすれば、法人が所有しているものであることは、登記簿を見れば明らかになります。
代表者が交代しても、名義変更手続きは必要ありません。
そのため法人設立する際に費用がかかってしまいますが、法人化することをおすすめします。
営利性がない団体であれば一般社団法人、営利性がある団体であれば株式会社や合同会社などになることができます。
それぞれの法人設立手続きについては、別記事にくわしくまとめてありますので、ご覧ください。
認可地縁団体になることで登記名義人になることができる
権利能力なき社団のうち自治会のような地縁にもとづいて設立された団体は、市町村長の許可を受けたときは、その規約に定められた目的の範囲内において、権利義務の主体になることができます(地方自治法260条の2第1項)。
これを認可地縁団体といいます。
認可地縁団体は、その所有する不動産について団体名義で登記することができます。
まとめ
以上、権利能力なき社団の代表者が変更したときの登記手続きについて解説しました。
登記手続きについては、自分でやるのが難しいときは司法書士に依頼することができます。
大阪の方であれば、当事務所でも承っています。
初回相談無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
ご相談の方は、電話(06-6356-7288)か、こちらのメールフォームからお問い合わせください。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。