補助人とは?補助人にできること【保佐人や成年後見人との違い】
「私の父が最近、軽度の認知症と診断されてしまいました。父は日常の買い物などは自分でできます。しかし、父は所有している自宅不動産を売却して、施設に入居したいと思っているのですが、父が不動産の売買契約をするのは難しいかと思います。成年後見人をつけるほどではないと思っていたのですが、調べると補助人というものがあると知りました。補助人について教えてください」
大阪の司法書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
補助人とは、軽度の認知症、知的障害、精神障害などで、ご自身で財産管理するには援助が必要な方をサポートする人です。
この記事では、補助人とは何かについて、わかりやすく解説します。
目次
補助人とは?補助人にできること【保佐人や成年後見人との違い】
補助人は、軽度の認知症、知的障害や精神障害などで判断能力が不十分なため、自分の財産を管理するために援助が必要だとされた人(被補助人)をサポートする人です。
不動産や自動車など重要な財産の売買や、金銭の貸し借りといった重要な財産行為について、自分一人でできないことはないが、他人の援助があった方が安心という方をサポートします。
後見制度は、判断能力の程度によって、後見、保佐、補助の3つのケースが用意されています。
もっとも判断能力が低下しており、自分ではまったく財産管理ができない方が対象なのが後見です。
中程度の判断能力がある方が対象なのが保佐です。
そして比較的、判断能力がしっかりしている方が対象なのが補助です。
補助は、後見や保佐より判断能力がしっかりしている方が対象なので、本人ができることは本人がやり、本人ができないことを補助人がサポートするという仕組みになっています。
補助制度は保佐と同様、消費者被害や浪費の防止、親亡き後問題対策などを目的に利用されています。
補助人の権限
補助人には、同意権、取消権と代理権という権限が与えられます。
同意権とは、本人が重要な財産の処分をすることについて、補助人が了承する、または、了承しない権限のことです。
代理権とは、補助人が本人のために契約などを代わりに行うことをいいます。
同意権、取消権
同意権とは、本人が重要な財産の処分をすることについて、補助人が了承するまたは了承しない権限のことをいいます。
本人が重要な財産の処分などを行うときには、補助人の同意を得る必要があります。
もし本人が補助人の同意を得てするべき行為について、同意を得ずに行った場合は、補助人がその行為を取り消すことができます(取消権)。
たとえば補助人に訪問販売による契約についての同意権が与えられている場合に、本人が訪問販売で補助人の同意を得ずに、高額で不必要な物を買ってしまった場合、補助人はこの売買契約を後で取り消すことができます。
また補助人が取り消すことができる行為は、被補助人(本人)も取り消すことができます。
もっとも、どんな行為であっても補助人の同意が必要になるわけではありません。
たとえば日用品の購入その他日常生活に関する行為については、本人が同意を得ずに行うことができます(民法13条ただし書き)。
これらの行為は、補助人は取り消すことができません。
これは日常生活についての少額な取引については本人の生活に与える影響はすくないので、本人が単独で行っても問題ないと考えられるからです。
また日常生活についての少額な取引についてまで同意が必要とすると、本人の権利を制限しすぎといえます。
補助人の同意が必要な行為は次の通り民法に規定されています(民法13条)。
- ・元本を領収し、又は利用すること
- ・借財又は保証をすること
- ・不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
- ・訴訟行為をすること
- ・贈与、和解又は仲裁合意をすること
- ・相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
- ・贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
- ・新築、改築、増築又は大修繕をすること
- ・民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること
- ・前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること
ただし、補助人の同意権、取消権は、上記の行為の一部に限られます(民法17条1項)。
上記の行為全部についての同意権、取消権を補助人に与えることはできません。
元本を領収し、又は利用すること
元本とは家賃、地代、利息を生じさせるような財産のことです。
債務者から弁済を受けることや、不動産の賃貸、利息付の金銭の貸し付けなどの行為などです。
たとえば、補助人に元本の領収、利用についての同意権が与えられている場合に、本人が補助人の同意を得ずに、銀行預金の払い戻しを行ったときは、補助人はこれを取り消し、もとに戻すことができます。
借財又は保証をすること
金銭の借り入れや、他人の借金などについて保証人になることです。
不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
日常生活に関する行為といえないような高額な取引などです。
たとえば、次のような行為がこれにあたります。
- ・不動産の売買
- ・不動産を担保にすること
- ・高額な金銭や物品を寄附すること
- ・高額な商品を売買すること
- ・クレジット契約をすること
- ・無利息で金銭を貸し付けること
- ・介護サービスの契約
- ・高齢者施設の入居契約
訴訟行為をすること
本人が訴えたり、訴えを取り下げることです。
本人が訴えられた場合に、応訴するのに補助人の同意は不要です。
贈与、和解又は仲裁合意をすること
「贈与」は、親族も含めた他人に贈与することです。
他人からの贈与を受けることは、補助人の同意は要りません。
「和解」は、他人とのトラブルにつき和解することです。
「仲裁合意」とは、他人とのトラブルにつき仲裁手続きを利用して解決することを合意することです。
相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
相続は、財産を承継するだけではなく、債務(借金)も承継する可能性があるため、承認する場合についても補助人に同意権、取消権を与えることができます。
もちろん相続放棄する場合も同様です。
・関連記事 相続放棄の手続きをわかりやすく解説【必要書類や注意点など】
遺産分割は、相続した財産の分け方を相続人同士で話し合うことです。
贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
贈与や遺贈を受け入れるのを拒否することは、補助人の不利益になる可能性があるため、補助人に同意権、取消権を与えることができます。
贈与や遺贈の中には、負担付きの贈与・遺贈というものがあります。
たとえば、不動産を贈与代わりに親の介護をしてもらう場合など、贈与を受ける代わりになんらかの負担が生じる贈与のことをいいます。
本人に負担が生じるので、補助人に同意権、取消権を与えることができます。
新築、改築、増築又は大修繕をすること
建物の新築、改築、増築、大修繕については、大きな支出になってしまうので、補助人に同意権、取消権を与えることができます。
民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること
民法602条に定める期間とは、次の通り。
- ・樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
- ・前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
- ・建物の賃貸借 3年
- ・動産の賃貸借 6か月
この期間を超えて賃貸借する場合は、補助人に同意権、取消権を与えることができます。
この期間を超えないような短期間の賃貸借は、本人への影響が少ないので、本人が単独でできます。
前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること
以上の行為を他の制限行為能力者の法定代理人としてすることについて、補助人に同意権、取消権を与えることができます。
制限行為能力者とは、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び同意権の審判を受けた被補助人のことです。
たとえば、前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすることについて補助人に同意権があたえられている場合、本人に未成年の子どもがいるときに、未成年の子の代理人として高額な売買や金銭の貸し借りなどの行為を行うのには、補助人の同意が必要になります。
代理権
代理権とは、補助人が本人の契約や手続き、日々の生活費の支払などを本人に代わって行う権限のことです。
具体的には、次のような行為のうち、必要な代理権が補助人に付与されます。
- ・不動産の売買や賃貸、新築、増改築、解体、担保の設定
- ・預貯金に関する金融機関との一切の取引
- ・年金など収入の受領およびこれに関する手続き
- ・家賃、公共料金などの支払い
- ・携帯電話、インターネットなどに関する契約
- ・相続の承認、放棄、贈与または遺贈の受諾、遺産分割などに関する諸手続
- ・介護契約の締結、介護保険、障害支援区分認定、健康保険などの各申請
- ・福祉関係施設への入所に関する契約
- ・医療契約及び病院への入院に関する契約
- など
補助人には、この代理権が当然に与えられるわけではなく、家庭裁判所から代理権付与の審判を受ける必要があります。
補助人に代理権を与えるためには、本人が申し立てる場合を除いて本人の同意が必要です。
補助人の職務
補助人の職務としては、大きく分けて、身上監護と財産管理があります。
また補助人は家庭裁判所に定期的に業務を報告する必要があります。
身上監護
身上監護とは、介護サービスの契約や、高齢者施設との入居契約、入退院の手続など、本人の生活や健康の維持についての契約や手続きを行うことです。
財産管理
被補助人の財産を管理することです。
本人の財産を預かり、収入と支出を管理します。
また同意権、取消権や代理権を行使して、本人の財産を守ります。
たとえば、補助人に不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為についての同意権を与えられている場合に、本人が補助人の同意を得ずに不要で高額な物を購入した場合は、補助人がこれを取り消して、本人の金銭を取り戻すことができます。
家庭裁判所への報告
補助人は、被補助人の財産を管理するため、不正などがないように、定期的に家庭裁判所に業務を報告する義務があります。
成年後見人や保佐人との違い
保佐人と補助人との大きな違いは、同意権です。
保佐人の同意権は、上記の民法13条で規定されている行為すべての同意権を有しています。
また上記以外の行為についても、家庭裁判所の審判によって、保佐人に同意権を与えることができます。
一方、被補助人(補助の場合の本人)は、被保佐人(保佐の場合の本人)より高い判断能力があることから、補助人に与えられる同意権は、上記の民法13条で規定されている行為の一部に限られます。
成年後見人には、同意権はありません。
これは、たとえ成年後見人が、本人が重要な財産の処分をすることなどにつき同意を与えたとしても、本人がその通りに行動することはできないと考えられるからです。
成年後見人は、本人がした契約につき、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて、取り消すことができます(民法9条)。
そのため成年後見の場合、基本的には成年後見人が本人の法律行為を代理で行うことになります。
成年後見人や保佐人については、こちらの記事をご覧ください。
補助人を選任するためには家庭裁判所に申し立てることが必要
補助制度を利用して補助人を選任するためには、成年後見人や保佐人と同様に家庭裁判所に申し立てる必要がります。
補助の申立てについては、必要書類を集めて、管轄の家庭裁判所に提出することで開始します。
手続きの詳細については、こちらにまとめてありますので、ご覧ください。
どういう人が補助人になるのか
補助の申立てをするときに、補助人の候補者を書く欄があります。
そこに記載すれば、親族でも補助人になることができます。
しかし、補助人を選ぶのは家庭裁判所です。
いろんな事情を考慮して親族を補助人にしないこともあります。
その場合は、司法書士、弁護士、社会福祉士といった専門職が選任されます。
親族が補助人に選任されにくいケースとしては、親族間に争いがあるなどの場合などです。
その他、親族が補助人に選任されにくいケースについてはこちらの記事をご覧ください。
補助監督人
補助人が選任された場合、補助人とは別に補助監督人という人が選任される場合があります。
補助監督人とは、補助人の不正などがないように、補助人の職務について監督する人のことです。
家庭裁判所は補助人の職務を監督しますが、家庭裁判所が直接、補助人を監督するのには限界があります。
なので、家庭裁判所は補助監督人を選任することで、補助人の職務を監督するということです。
補助監督人は必ずしも選任されるわけではなく、親族が補助人になる場合に監督人が選ばれることが多いです。
司法書士、弁護士、社会福祉士といった専門職が補助人になる場合は、原則として補助監督人はつきません。
補助監督人は主に弁護士や司法書士が選任されます。
補助人の報酬
補助人の報酬は、家庭裁判所が決定し、本人の財産から支出されます。
親族が補助人の場合でも、報酬を請求することができます。
報酬額は、本人の財産額に応じて、家庭裁判所が決定します。
大阪家庭裁判所管轄の、補助人の報酬の目安は次の通りです。
- 基本報酬
- 月額2万円
- 本人の財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合
- 月額3万円~4万円
- 本人の財産額が5000万円を超える場合
- 月額5万円~6万円
訴訟や遺産分割など、特別な事務を行った場合は、さらに追加の報酬がかかります。
また、補助監督人がついている場合、補助監督人の報酬もかかります。
補助監督人の報酬は、補助人の報酬の約半分です。
補助の終了
一度、補助が開始すると、本人が亡くなるか、後見や保佐に移行するまで補助人は付き続けます。
本人が死亡すると、補助人の職務が終了します。
本人の判断能力がさらに低下して、後見や保佐に移行した場合も、補助人の職務が終了します。
また本人との信頼関係が破綻して、補助人が辞任した場合も補助人の職務が終了します。
しかしその場合は後任の補助人が選任され、補助の審判自体がなくなるわけではありません。
まとめ
以上、補助人について解説しました。
補助や、保佐、成年後見は一度、開始すると基本的にはご本人が亡くなるまで続きます。
本当にご本人にとって、補助制度を利用することが必要なのか、慎重に検討することが必要です。
もし本人に補助、保佐あるいは後見を申し立てることが必要なのか判断に迷う場合は、司法書士などの専門家に相談してみましょう。
大阪なら当事務所でも承っています。
初回相談無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
当事務所の成年後見サポートサービスの詳細についてはこちらをご覧ください。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。