遺言の必要性が高い6つのケースを司法書士がわかりやすく解説
「遺言を書いた方がいいと知り合いから言われました。めんどくさいのでできることなら書きたくないのですが、どんな場合に遺言が必要になんでしょうか」
大阪の司法書士・行政書士の田渕です。こんな疑問にお答えします。
遺言は書いておいた方がいいとは、よく言われますよね。
それでは具体的にどんな場合に遺言が必要になるのか、ご存知でしょうか?
遺言の必要性が高いケースは、主に6つあります。
この記事では、遺言の必要性が高いケースについて、司法書士がわかりやすく解説します。
遺言の必要性が高い6つのケースを司法書士がわかりやすく解説
特に遺言の必要性が高いのは、次の6つのケースです。
- 1 相続人の仲が良くない場合
- 2 相続人の中に、高齢の方や知的障害をお持ちの方がいる場合
- 3 相続人の中に未成年がいる場合
- 4 夫婦間に子どもがいない場合
- 5 再婚して先妻の子どもと後妻がいる場合
- 6 相続人の中に行方不明の人がいる場合
それでは、くわしく見ていきましょう。
遺言の必要性が高いケース1 相続人の仲が良くない場合
遺言の必要性が高いケースの1つ目は、相続人の仲が良くない場合です。
遺言がない場合、財産の分け方は、相続人同士の話し合いで決めます。
この相続人の話し合いのことを遺産分割協議と言います。
遺産分割について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
相続人が不仲だと、遺産分割協議が成立しない可能性があります。
当事者同士での話し合いができない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
裁判手続きをすることで、さらに家族間の仲が悪くなるかもしれません。
遺言があれば、遺言の通りに財産を分けることになるので、遺産分割協議をする必要はありません。
というわけで、相続人の仲が良くない場合は、ぜひ遺言を書いておきましょう。
遺言の必要性が高いケース2 相続人の中に、高齢の方や知的障害をお持ちの方がいる場合
遺言の必要性が高いケースの2つ目は、相続人の中に、認知症のリスクがある高齢者の方や、知的障害をお持ちの方がいる場合です。
相続人の中に認知症などで判断能力が充分でない方がいると、遺産分割協議ができなくなってしまいます。
この場合、その方には成年後見人をつけないといけません。
成年後見人とは、認知症などで判断能力が充分でない方の代わりに契約を行ったり、財産管理をしたりする人のことです。
成年後見人についてくわしく知りたい方はこちらをご覧ください。
成年後見人がつくと、成年後見人が本人に代わってほかの相続人と遺産分割協議をします。
そして成年後見人がつくと、柔軟な遺産分割ができなくなってしまいます。
具体例をあげて解説します。
たとえば、奥さんとお子さんがひとりいて、家族の仲は良く、財産はすべてお子さんが承継するということで、奥さんもお子さんも納得していた場合です。
ご主人が亡くなったあと、奥さんがショックで一気に認知機能が低下してしまい、遺産分割協議ができないため、成年後見人をつけることになりました。
成年後見人は、法定相続分を確保しようとします。
法定相続分とは、法律で定められた相続人の取り分で、この場合奥さんの法定相続分は2分の1です。
たとえ奥さんが元気なときに、財産はいらないと言っていたとしても、成年後見人としては、極力、法定相続分の2分の1は確保しようとします。
成年後見人は本人の代理人になるので、本人の利益を最大限尊重しないといけないからです。
このように成年後見人がついてしまうと、柔軟な遺産分割ができなくなってしまいます。
そのため相続人の中に、認知症のリスクがある高齢者の方や知的障害をお持ちの方がいる場合は、遺言を書く必要があります。
ちなみに成年後見人の選任申立の理由の約8%は「相続手続きのため」であり、件数にすると年約6000件になります。
遺言を書いていれば、相続手続きのために成年後見人を選任する必要もないのです。
遺言の必要性が高いケース3 相続人の中に未成年がいる場合
遺言の必要性が高いケースの3つ目は、相続人の中に未成年がいる場合です。
相続人の中に未成年がいるときは、親が未成年の子どもの代わりに遺産分割協議に参加しますが、親も遺産分割協議に参加する場合は、親はその子どもの代理人になれません。
この場合は、未成年の子どもの特別代理人を選任しないといけません。
特別代理人が、未成年の子の代わりに遺産分割協議に参加して、遺産の分け方を決めます。
この場合も、成年後見人をつける場合と同じく、柔軟な遺産分割ができなくなるという問題が生じます。
また特別代理人を選任するには、家庭裁判所に申し立てますが、手続きがめんどくさいです。
家族に手間をかけないためにも、遺言を書いておいた方がいいでしょう。
遺言の必要性が高いケース4 夫婦間に子どもがいない場合
遺言の必要性が高いケースの4つ目は、夫婦間に子どもがいない場合です。
子どもがおらず、直系尊属(親や祖父母)もいないと、兄弟姉妹または甥姪が相続人になるからです。
ここで誰が相続人になるのか確認しておきましょう。
配偶者は常に相続人になります。
配偶者以外の人については、相続人になれる順位が決められています。
次の通りです。
- 第一順位 子(または孫)
- 第二順位 直系尊属(親や祖父母)
- 第三順位 兄弟姉妹(または甥姪)
先順位の人がひとりでもいる場合は、後の順位の人は相続できません。
子や孫がいない場合は、直系尊属(親や祖母)が相続人になりますが、被相続人が高齢の場合は、すでに直系尊属がいないことが多いと思います。
そうなると、兄弟姉妹または、甥や姪が相続人になります。
親族間で仲がいい場合はいいですが、疎遠になっている場合は、他の相続人とトラブルに発展する可能性があります。
なので、子どもがいないご夫婦は、お互いが、自分が亡くなったときは全財産を配偶者に相続させるという夫婦相互遺言を書いておきましょう。
こうすることで、縁が薄い兄弟姉妹に財産が行ってしまうことはなくなります。
なお兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分についてこちらをご覧ください。
なお、夫婦相互遺言の場合は、最終的に夫婦がともに亡くなった際の財産の行き場所を決めておく必要があります。
遺言の必要性が高いケース5 先妻の子どもと、後妻がいる場合
遺言の必要性が高いケースの5つ目は、先妻との間に子どもがいて、再婚して後妻との間にも子どもがいる場合です。
遺言がない場合、先妻との間の子どもと、後妻、後妻との間の子どもで遺産分割協議をすることになります。(先妻は相続人になりません。)
非常にトラブルになりやすいケースですので、争いを避けるために遺言を書いておく必要があるのです。
遺言の必要性が高いケース6 相続人の中に行方不明の人がいる場合
遺言の必要性が高いケースの6つ目は、相続人の中に行方不明の人がいる場合です。
相続人の中に所在不明で、連絡が取れない人がいると、遺産分割協議ができません。
遺産分割協議とは、相続した財産の相続人でどう分けるかを相続人同士で話し合うことです。
遺産分割協議は相続人全員が参加しないと効力がありませんので、相続人の中に行方不明の人がいると遺産分割協議ができないのです。
遺産分割ができないと、不動産や預金などの資産を相続人の名義にすることができません。
そのため被相続人の名義の不動産を売却できず、被相続人の銀行預金を引き出すことができないということになってしまいます。
相続人の中に行方不明の人がいる場合、裁判所が失踪宣告をすることよって行方不明の人を死亡したとみなすことができます。
しかし、失踪宣告は手続きに時間がかかり、その間遺産分割協議ができません。 遺言を書いていると遺産分割協議が必要なくなりますので、相続人の中に行方不明の人がいる場合は遺言を書いておくべきです。
そのほかの遺言を書いておいた方がいいケース
以上の6つのケースは遺言の必要性が高いケースですが、次のような場合も、遺言を書いておいた方がいいかと思います。
- 相続人以外に遺贈したい場合
- 個人で事業をしている場合
- 相続人ごとに財産を指定したい場合
- 相続人がいない場合
相続人以外に遺贈したい場合
遺贈とは、遺言で贈与することです。
内縁の妻や、子どもの嫁、孫(子どもがいる場合)などは相続人になりません。
これらの人は、そのままでは財産を承継しませんので、承継してほしいときは遺言を書く必要があります。
個人で事業をしている場合
個人で事業をされている方が、子のひとりに後継ぎとして事業を承継してほしいときにも遺言を作成した方がいいです。
相続人ごとに財産を指定したい場合
この不動産は長男へ、この不動産と預貯金は次男へ、その他の財産は長女へという風に相続人ごとに相続する財産を指定したい場合は、遺言で指定することになります。
特に不動産については相続人の共有名義にするより、相続人のうちの一人の単独名義にした方がいいです。
共有名義だと、さらに名義人が亡くなった場合に名義人の数が増え、権利関係がわかりにくくなるからです。
名義人の数が増えるとトラブルが発生しやすくなり、不動産の管理もままならなくなり、空き家の原因になります。
名義人全員が同意しないと不動産を売却できないので、処分しやすくするためにも不動産は相続人のうちの一人に遺贈しましょう。
相続人がいない場合
相続人がいない場合、財産は国のものになります。
国のものになるくらいならお世話になった人や団体に寄付したい、という方は遺言を書いておきましょう。
遺言があっても遺産分割協議が必要なケース
次の場合は、遺言があっても遺産分割協議が必要になってしまいますので、注意が必要です。
- ・すべての遺産の分割について書かれていない
- ・遺産の分割が割合で定められていない
せっかく遺言を書いても、家族間でトラブルになっては意味がありません。
そうならないように、信頼できる専門家に相談することをおすすめします。
遺言の書き方
具体的な遺言の書き方は、別記事にまとめてありますので、そちらをご覧ください。
まとめ
以上、遺言の必要性が高いケースをざっと解説しました。
実は遺言を書く人はそんなに多くありません。
全体の10%くらいだと言われています。
中には必要がないため、遺言を書かない人もいるかもしれません。
しかし実際には遺言の必要性が高いのに、遺言を書いていなかったために、相続争いに発展したり、相続人のうち誰も実家を引き継がなかったために、実家が空き家になったりするなどの問題が発生しています。
遺言を書かない人が多いのは、自分は今困っていないからです。
しかし、後で家族が困ってしまうことになります。
そうならないように、家族が安心して引き継げるよう、遺言を書いておくことをおすすめします。
当事務所では、遺言書作成のお手伝いをしています。
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今回は以上です。
ここまでお読みいただいてありがとうございました。