保佐人とは何かわかりやすく解説【成年後見人との違いなど】
「私の夫が最近、認知症になってしまい、財産管理ができなくなってしまいました。私も高齢なので夫の財産管理まではできないので、成年後見制度を利用したいと思っています。成年後見について調べていると、成年後見人のほかに保佐人というのがあると知りました。保佐人とは何ですか?成年後見人とどう違うんですか?」
大阪の司法書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
この記事では、保佐人とは何かについて、わかりやすく解説します。
目次
- 1 保佐人とは何かわかりやすく解説【成年後見人との違いなど】
- 2 保佐人の権限
- 2.1 同意権
- 2.1.1 元本を領収し、又は利用すること
- 2.1.2 借財又は保証をすること
- 2.1.3 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
- 2.1.4 訴訟行為をすること
- 2.1.5 贈与、和解又は仲裁合意をすること
- 2.1.6 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
- 2.1.7 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
- 2.1.8 新築、改築、増築又は大修繕をすること
- 2.1.9 民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること
- 2.1.10 前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること
- 2.1.11 その他の場合についての同意権
- 2.2 代理権
- 2.1 同意権
- 3 保佐人の職務
- 4 保佐人を選任するためには家庭裁判所に申し立てることが必要
- 5 どういう人が保佐人になるのか
- 6 保佐監督人
- 7 保佐人の報酬
- 8 保佐の終了
- 9 まとめ
保佐人とは何かわかりやすく解説【成年後見人との違いなど】
保佐人は、認知症、知的障害や精神障害などで判断能力が著しく不十分なため、自分の財産を管理するために援助が必要だとされた人(被保佐人)をサポートする人です。
日常の買い物などはできても、不動産など重要な財産の売買や金銭の貸し借りはできないという方をサポートします。
後見制度は、判断能力の程度によって、後見、保佐、補助の3つのケースが用意されています。
もっとも、判断能力が低下しており、自分ではまったく財産管理ができない方が対象なのが後見です。
比較的、判断能力がしっかりしている方が対象なのが補助です。
この中間くらいの判断能力がある方が対象なのが保佐です。
消費者被害や浪費防止、親亡き後問題対策などを目的に保佐の制度が利用されています。
保佐人の権限
保佐人には、同意権と代理権という権限が与えられます。
同意権とは、本人が重要な財産の処分をすることについて、保佐人が了承するまたは了承しない権限のことをいいます。
代理権とは、保佐人が本人のために契約などを代わりに行うことをいいます。
同意権
同意権とは、本人が重要な財産の処分をすることについて、保佐人が了承するまたは了承しない権限のことをいいます。
本人が重要な財産の処分などを行うときには、保佐人の同意を得る必要があります。
もし本人が保佐人の同意を得てするべき行為について、同意を得ずに行った場合は、保佐人がその行為を取り消すことができます。
たとえば本人が訪問販売で、保佐人の同意を得ずに、高額で不必要な物を買ってしまった場合、保佐人はこの売買契約を後で取り消すことができます。
また保佐人が取り消すことができる行為は、被保佐人(本人)も取り消すことができます。
もっとも、どんな行為であっても保佐人の同意が必要になるわけではありません。
たとえば日用品の購入その他日常生活に関する行為については、本人が同意を得ずに行うことができます(民法13条ただし書き)。
これらの行為は、保佐人は取り消すことができません。
これは日常生活についての少額な取引については本人の生活に与える影響はすくないので、本人が単独で行っても問題ないと考えられるからです。
また日常生活についての少額な取引についてまで同意が必要とすると、本人の権利を制限しすぎといえます。
保佐人の同意が必要な行為は次の通り民法に規定されています(民法13条)。
- ・元本を領収し、又は利用すること
- ・借財又は保証をすること
- ・不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
- ・訴訟行為をすること
- ・贈与、和解又は仲裁合意をすること
- ・相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
- ・贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
- ・新築、改築、増築又は大修繕をすること
- ・民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること
- ・前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること
元本を領収し、又は利用すること
元本とは家賃、地代、利息を生じさせるような財産のことです。
債務者から弁済を受けることや、不動産の賃貸、利息付の金銭の貸し付けなどの行為などです。
たとえば本人が保佐人の同意を得ずに、銀行預金の払い戻しを行ったときは、保佐人はこれを取り消し、もとに戻すことができます。
借財又は保証をすること
金銭の借り入れや、他人の借金などについて保証人になることです。
不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
日常生活に関する行為といえないような高額な取引などです。
たとえば、次のような行為がこれにあたります。
- ・不動産の売買
- ・不動産を担保にすること
- ・高額な金銭や物品を寄附すること
- ・高額な商品を売買すること
- ・クレジット契約をすること
- ・無利息で金銭を貸し付けること
- ・介護サービスの契約
- ・高齢者施設の入居契約
訴訟行為をすること
本人が訴えたり、訴えを取り下げるには保佐人の同意が必要です。
一方、本人が訴えられた場合に、応訴するのに保佐人の同意は不要です。
贈与、和解又は仲裁合意をすること
「贈与」は、親族も含めた他人に贈与することです。
他人からの贈与を受けることは、保佐人の同意は要りません。
「和解」は、他人とのトラブルにつき和解することです。
「仲裁合意」とは、他人とのトラブルにつき仲裁手続きを利用して解決することを合意することです。
相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
相続は、財産を承継するだけではなく、債務(借金)も承継する可能性があるため、承認する場合も保佐人の同意が必要です。
もちろん相続放棄する場合も同様です。
・関連記事 相続放棄の手続きをわかりやすく解説【必要書類や注意点など】
遺産分割は、相続した財産の分け方を相続人同士で話し合うことです。
贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
贈与や遺贈を受け入れるのを拒否することは、保佐人の不利益になる可能性があるため、保佐人の同意が必要になります。
贈与や遺贈の中には、負担付きの贈与・遺贈というものがあります。
たとえば、不動産を贈与代わりに親の介護をしてもらう場合など、贈与を受ける代わりになんらかの負担が生じる贈与のことをいいます。
本人に負担が生じるので、保佐人の同意が必要になります。
新築、改築、増築又は大修繕をすること
建物の新築、改築、増築、大修繕については、大きな支出になってしまうので、本人が独断で行うことはできず、保佐人の同意が必要です。
民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること
民法602条に定める期間とは、次の通り。
- ・樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
- ・前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
- ・建物の賃貸借 3年
- ・動産の賃貸借 6か月
この期間を超えて賃貸借する場合は、保佐人の同意が必要です。
この期間を超えないような短期間の賃貸借は、本人への影響が少ないので、本人が単独でできます。
前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること
以上の行為を他の制限行為能力者の法定代理人としてすることには、保佐人の同意が必要です。
制限行為能力者とは、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び同意権の審判を受けた被補助人のことです。
たとえば、本人に未成年の子どもがいるときに、未成年の子の代理人として高額な売買や金銭の貸し借りなどの行為を行うのには、保佐人の同意が必要になります。
その他の場合についての同意権
以上の行為以外の場合であっても、家庭裁判所の審判によって、保佐人に同意権を与えることができます。
民法13条1項には、本人に不利益になる可能性が高い行為が規定されていますが、ケースによっては他にも保佐人に同意権を与えた方がいい行為もあるためです。
ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については同意権を与えることはできません。[
代理権
代理権とは、保佐人が本人の契約や手続き、日々の生活費の支払などを本人に代わって行う権限のことです。
保佐人には、この代理権が当然に与えられるわけではなく、家庭裁判所から代理権付与の審判を受ける必要があります。
保佐人に代理権を与えるためには、本人が申し立てる場合を除いて本人の同意が必要です。
保佐人の職務
保佐人の職務としては、大きく分けて、身上監護と財産管理があります。
また保佐人は家庭裁判所に定期的に業務を報告する必要があります。
身上監護
身上監護とは、介護サービスの契約や、高齢者施設との入居契約、入退院の手続など、本人の生活や健康の維持についての契約や手続きを行うことです。
判断能力が低下していても、保佐であれば、本人がしっかりと意思を表示できることが多いため、保佐人としては本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しないといけません(民法876条の5第1項)。
財産管理
被保佐人の財産を管理することです。
本人の財産を預かり、収入と支出を管理します。
また同意権や代理権を行使して、本人の財産を守ります。
たとえば、本人が保佐人の同意を得ずに不要で高額な物を購入した場合は、保佐人がこれを取り消して、本人の金銭を取り戻すことができます。
家庭裁判所への報告
保佐人は、被保佐人の財産を管理するため、不正などがないように、定期的に家庭裁判所に業務を報告する義務があります。
保佐人を選任するためには家庭裁判所に申し立てることが必要
保佐制度を利用して保佐人を選任するためには、成年後見人と同様に家庭裁判所に申し立てる必要がります。
保佐の申立てについては、必要書類を集めて、管轄の家庭裁判所に提出することで開始します。
手続きの詳細については、こちらにまとめてありますので、ご覧ください。
どういう人が保佐人になるのか
保佐の申立てをするときに、保佐人の候補者を書く欄があります。
そこに記載すれば、親族でも保佐人になることができます。
しかし、保佐人を選ぶのは家庭裁判所です。
いろんな事情を考慮して親族を保佐人にしないこともあります。
その場合は、司法書士、弁護士、社会福祉士といった専門職が選任されます。
親族が保佐人に選任されにくいケースとしては、親族間に争いがあるなどの場合です。
その他、親族が保佐人に選任されにくいケースについてはこちらの記事をご覧ください。
保佐監督人
保佐人が選任された場合、保佐人とは別に保佐監督人という人が選任される場合があります。
保佐監督人とは、保佐人の不正などがないように、保佐人の職務について監督する人のことです。
家庭裁判所は保佐人の職務を監督しますが、家庭裁判所が直接、保佐人を監督するのには限界があります。
なので、家庭裁判所は保佐監督人を選任することで、保佐人の職務を監督するということです。
保佐監督人は必ずしも選任されるわけではなく、親族が保佐人になる場合に監督人が選ばれることが多いです。
司法書士、弁護士、社会福祉士といった専門職が保佐人になる場合は、原則として保佐監督人はつきません。
保佐監督人は主に弁護士や司法書士が選任されます。
保佐人の報酬
保佐人の報酬は、家庭裁判所が決定し、本人の財産から支出されます。
親族が保佐人の場合でも、報酬を請求することができます。
報酬額は、本人の財産額に応じて、家庭裁判所が決定します。
大阪家庭裁判所管轄の、保佐人の報酬の目安は次の通りです。
- 基本報酬
- 月額2万円
- 本人の財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合
- 月額3万円~4万円
- 本人の財産額が5000万円を超える場合
- 月額5万円~6万円
訴訟や遺産分割など、特別な事務を行った場合は、さらに追加の報酬がかかります。
また、保佐監督人がついている場合、保佐監督人の報酬もかかります。
保佐監督人の報酬は、保佐人の報酬の約半分です。
保佐の終了
一度、保佐が開始すると、本人が亡くなるか、後見に移行するまで保佐人は付き続けます。
本人が死亡すると、保佐人の職務が終了します。
本人の判断能力がさらに低下して、後見開始の審判がされ、後見に移行した場合も、保佐人の職務が終了します。
また本人との信頼関係が破綻して、保佐人が辞任した場合も保佐人の職務が終了します。
しかしその場合は後任の保佐人が選任され、保佐の審判自体がなくなるわけではありません。
まとめ
以上、保佐人とは何かについて解説しました。
保佐は一度、開始すると基本的にはご本人が亡くなるまで続きます。
本当にご本人にとって、保佐制度を利用することが必要なのか、慎重に検討することが必要です。
もし本人に保佐あるいは後見を申し立てることが必要なのか判断に迷う場合は、司法書士などの専門家に相談してみましょう。
大阪なら当事務所でも承っています。
当事務所の成年後見サポートサービスの詳細についてはこちらをご覧ください。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。