遺言代用信託とは何か?司法書士がわかりやすく解説します
「私には、妻と二人の子どもがいます。自宅には妻と私の2人で住んでいます。次男は近くに住んでいますが、長男は遠方に住んでいます。私も高齢になり、私が先に亡くなった後の妻のことが心配になりました。私が死んだ後すぐに葬儀費用や妻の生活費で現金が必要になるかと思いますが、妻が私名義の銀行預金を相続するには手続きに時間がかかります。このような場合には遺言代用信託という制度が使えると聞きました。遺言代用信託についてくわしく教えてもらえますか?」
大阪の司法書士・行政書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
遺言代用信託とは、生前に財産を家族などに託して、自分の死後に子や配偶者に財産を分配することができる制度です。
この記事では、遺言代用信託についてわかりやすく解説します。
遺言代用信託とは何か?司法書士がわかりやすく解説します
遺言代用信託とは、生前に財産を家族などに託して、自分の死後に子や配偶者に財産を分配することができる制度です。
遺言代用信託は、民事信託(家族信託)の一つです。
信託は家族など信頼できる人に財産を託し、管理してもらう契約です。
信託の登場人物には、主に次の3人がいます。
- ・委託者(いたくしゃ)
- ・受託者(じゅたくしゃ)
- ・受益者(じゅえきしゃ)
委託者は、財産の所有者、名義人です。
受託者は、本人に代わって財産を管理する人です。
受益者は、信託された財産の恩恵を受ける人です。受益者は、複数いる場合もあります。
たとえば、「自分が認知症などで財産を管理できなくなった場合には、障害がある次男のために、信託財産を使ってほしい」と長男に頼むケースでは、頼んだ人が委託者、頼まれた長男が受託者、障害がある次男が受益者です。
家族信託では、生前に財産管理を託すだけでなく、自分が亡くなった後に自分の財産を、誰にどのように承継させるか決めることができます。
生前の間は、自分を委託者兼受益者、子どもを受託者として信託して、亡くなった後は、子どもや配偶者などを受益者とすることで、自分の死後の財産の分配を指定することができます。
このように遺言と同じように自分の死後の財産の分配方法などを指定できることから遺言代用信託といいます。
遺言代用信託のデメリットとメリット
遺言代用信託には、費用が高額になるというデメリットがあります。
遺言代用信託は、仕組みが複雑なため、司法書士などの専門家に依頼することが一般であり、また複雑な分、専門家に支払う費用が高額になってしまうのです。
一方、遺言代用信託には、相続人にとっては、時間のかかる相続手続きを回避できるというメリットがあります。
預金の相続手続きについては、被相続人の、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本などの書類を集め、相続人全員で遺産分割協議をするなどの手続きが必要になります。
遺言代用信託では、生前に財産が信託されて、受託者が管理していますので、このような手続きが不要になります。
そのため、遺言代用信託を利用していれば、被相続人がお亡くなりになった直後に必要になる葬儀費用をすぐに確保することができます。
遺言代用信託と遺言信託の違い
遺言代用信託に似ているものに遺言信託があります。
「遺言信託」という言葉には、次の2つの意味があります。
- ①遺言で設定する信託
- ②信託銀行などが提供する遺言の作成・執行などのサービス
①の遺言信託は、信託を遺言書の方式で設定するものです。
遺言で設定するため、法律で定められた遺言の方式に従って遺言を作成する必要があります。
これに対して遺言代用信託は契約なので、そのような規制はありません。
②の意味での遺言信託は、信託銀行が遺言の作成や遺言執行についてサポートするサービスです。
信託法でいう「信託」とは意味が異なるので注意が必要です。
遺言の作成や遺言執行のサポートについては司法書士などの専門家行っていますが、銀行なども行っているところがあります。
この場合の「遺言信託」は、多くの財産を所有している方向けの相続サービスですので、非常に高額になることがほとんどです。
司法書士などの専門家に依頼するより、費用が何倍もかかってしまうこともあります。
また、自分の財産の総額を銀行に把握されることになりますので、その情報をもとに自社の金融商品の営業をされることもあります。
そのため、信託銀行が提供する遺言信託は全くおすすめできません。
遺言代用信託と遺留分
遺言代用信託は、遺留分侵害額請求の対象になります。
遺留分とは、相続人に遺しておくべき最低限の取り分のことです。
遺留分を侵害された相続人は、財産を承継した相続人に対して侵害された遺留分に相当する金銭を請求することができます。
これが遺留分侵害額請求です。
特定の相続人だけを受益者とする遺言代用信託をして、他の相続人には何も相続させないような場合、他の相続人は、受益者に対して遺留分侵害額請求をする可能性があります。
そうなるとトラブルになってしまいますよね?
そうならないように遺言代用信託の際は、できるだけ相続人の遺留分を侵害しないようにする必要があります。
遺留分についてはくわしくはこちら。
遺言代用信託と税金
遺言代用信託は、形式的には、生前に受託者に財産を移転するものです。
しかし、生前の間は、実質的に権利が譲渡されるわけではないので、課税されません。
委託者が亡くなった後に、受益者に財産が移転し遺贈されたものとみなされ相続税が課税されます(相続税法9の2)。
まとめ
以上、遺言代用信託について解説しました。
遺言代用信託について、まとめると次の通り。
- ・遺言代用信託は、自分の死後の財産の分配方法を指定する信託
- ・遺言代用信託には、費用が高額になるというデメリットがある
- ・遺言代用信託には、相続人にとって相続手続きを回避できるメリットがある
- ・遺言代用信託は、相続人の遺留分を侵害しないようにする注意
遺言代用信託は、複雑な仕組みです。
司法書士などの専門家に依頼することをお勧めします。
大阪近辺の方なら当事務所でも承ります。
初回相談無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせはこちらから。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。