死因贈与契約による仮登記の申請方法をわかりやすく解説
「兄から無償で土地を借りています。兄と私はこの土地について、死因贈与契約を締結しました。この死因贈与契約に基づいて、兄の生前の間に死因贈与契約にもとづく所有権移転登記をすることはできますか?」
大阪の司法書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
死因贈与契約は、贈与する人の死亡によって効力が発生する贈与契約です。
贈与者(贈与する人)が生前の間は贈与契約の効力は発生しないのですが、贈与者の生前の間に仮登記を申請することができます。
仮登記とは、将来の登記を保全するためにする登記です。
仮登記は、権利は発生しているけども書類がそろっていないときや、将来に権利を取得することが予定されているけど、まだ権利が発生していない場合にすることができます。
そして仮登記した後に贈与者が亡くなると、あらためて仮登記に基づく本登記を申請することができます。
この記事では、死因贈与契約による仮登記の申請方法について、司法書士がわかりやすく解説します。
目次
死因贈与契約による仮登記の申請方法をわかりやすく解説
死因贈与契約とは、贈与する人の死亡によって効力が発生する贈与契約です。
死因贈与に似ているのが、遺贈です。
遺贈とは、遺言で第三者や相続人に財産を贈与することです。
どちらも、死亡によって効力が発生します。
死因贈与契約と遺贈の違いは、遺贈は遺言を遺した人が単独ですることができるもので財産をもらう人の承諾は要りませんが、死因贈与契約は契約なので受贈者(財産をもらう人)の承諾が必要である点です。
遺贈は、贈与者の生前に仮登記を申請することはできませんが、死因贈与契約の場合は、贈与者の生前でも仮登記を申請することができます。
死因贈与契約は、普通の贈与契約と同じように財産を贈与者と、受贈者の合意によってされるもので、ただ贈与者の死亡が効力発生時期になっているだけだからです。
死因贈与契約に基づく仮登記を申請する方法として、次の三通りの方法があります。
・公正証書に基づいて、受贈者が単独で申請する方法
・贈与者の承諾書と印鑑証明書を添付して、受贈者が単独で申請する方法
・贈与者と受贈者が共同して申請する方法
このうちおすすめなのが、公正証書に基づいて、受贈者が単独で申請する方法です。
くわしく解説します。
公正証書に基づいて、受贈者が単独で申請する方法
一番おすすめの方法が、公正証書に基づいて、受贈者が単独で申請する方法です。
死因贈与契約書を公正証書で作成します。
もし死因贈与契約書を公正証書ではない普通の契約書で作成すると、仮登記に基づいて本登記するときに、真正を担保するため、次のいずれかの印鑑証明書が必要になります。
・贈与者の印鑑証明書
・贈与者の相続人の印鑑証明書
これらの印鑑証明書は、期間制限はありませんが、贈与者の印鑑証明書については亡くなった後では印鑑証明書は発行できません。
また相続人の印鑑証明書については、相続人が印鑑証明書を提出してくれればいいのですが、登記に協力してくれなければ訴訟を起こさなくはいけません。
本来なら相続できたはずの不動産をほかの人に贈与されてしまい、気分を害した結果、相続人が登記に協力しないという事態は十分考えられます。
そのようなことがないように、死因贈与契約書を公正証書で作成し、受贈者(贈与を受ける人)を執行者に選任しておきましょう。
執行者とは、贈与者が亡くなった後に、贈与者に代わって死因贈与契約の内容を実現するために動く人のことです。
受贈者を執行者に選任しておくと、受贈者兼執行者が単独で登記を申請することができるので、非常にスムーズに登記することができます。
この方法のデメリットは、公証人に支払う手数料がかかってしまうということです。
手数料は、下記の通りです。
贈与財産の価額によって異なります。
手数料はかかりますが、後々面倒な手続きや訴訟などになるよりは先に公正証書を作成しておいた方がいいでしょう。
目的の価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
・外部リンク 日本公証人連合会
死因贈与契約による仮登記の申請方法
死因贈与契約による仮登記の申請は、申請書を作成し、添付書類を集めて、法務局に申請します。
公正証書に基づいて、受贈者が単独で申請する場合の登記申請書は次の通りです。
登記申請書
登記の目的 始期付所有権移転仮登記
原 因 令和〇年〇月〇日贈与
(始期 Aの死亡)
権 利 者 〇〇市○○町○丁目○番地
(申請人) B
連絡先の電話番号 - -
義 務 者 〇〇市○○町○丁目○番地
A
添付書類 登記原因証明情報 印鑑証明書 代理権限証明書
令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局〇〇出張所
課税価格 金○円
登録免許税 金○円
不動産の表示
(省略)
権利者とは、受贈者(もらう人)のことです。
義務者とは、贈与者(贈与する人)のことです。ただし、死因贈与契約で執行者を選任しておいた場合、執行者が義務者になります。
受贈者を執行者にしておけば、権利者と義務者が同じ人になります。
死因贈与契約書が公正証書で作成され、契約書の中に贈与者が所有権移転の仮登記を申請することを認めている旨の記載があるときは、贈与者の印鑑証明書がなくても、権利者(受贈者)は単独で仮登記を申請することができます(昭和54年7月19日民三4170)。
権利者が単独で申請する場合は、権利者の名前の前に「(申請人)」と記載します。
添付書類は次の通りです。
・登記原因証明情報
・納税通知書か評価証明書
・代理権限証明情報
死因贈与契約による仮登記の添付書類1 登記原因証明情報
登記原因証明書とは、登記原因(この場合は死因贈与)があったことを証明する書類です。
死因贈与契約の場合は、死因贈与契約書が登記原因証明情報になります。
死因贈与契約書が、公正証書ではない普通の契約書の場合は、贈与者の印鑑証明書も必要になります。
死因贈与契約書は、コピーして「この写しは原本に相違ありません」と記載したものを一緒に提出すると、あとで原本は返してもらえます。
死因贈与契約による仮登記の添付書類2 納税通知書か評価証明書
申請書には記載しませんが、不動産の課税価格を証明するために、納税通知書か評価証明書を添付します。
納税通知書は不動産の名義人あてに毎年送られてくる書類です。
評価証明書は不動産の所在地の役所で取得できます。
死因贈与契約による仮登記の添付書類3 代理権限証明情報
代理人によって申請する場合は、代理権限証明情報が必要になります。
死因贈与契約による仮登記の登録免許税
登録免許税は、課税価格の1000分の10です。
課税価格は、納税通知書か評価証明書で知ることができます。
登録免許税は、収入印紙を台紙に貼り付けて申請書などと一緒に提出します。
死因贈与契約による仮登記の申請先
申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。
法務局の管轄については、法務局のホームページをご覧ください。
・外部リンク 管轄のご案内
死因贈与契約による仮登記にもとづく本登記
仮登記をした後、贈与者が亡くなった場合は、本登記を申請することができます。
本登記の申請手続きについては、別記事にくわしくまとめてありますので、ご覧ください。
・関連記事 死因贈与契約の登記手続きについて司法書士が解説します
まとめ
以上、死因贈与契約による仮登記の申請について解説しました。
死因贈与契約について専門家に相談したい場合、司法書士に相談しましょう。
大阪周辺でしたら、当事務所でも承っています。
死因贈与契約書の作成、公証役場での手続きから、登記申請まで一貫して手続きを代わりに行います。
ご相談の方は、電話(06-6356-7288)か、こちらのメールフォームからお問い合わせください。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。