株主総会の決議事項を解説します【特殊決議 特別決議 普通決議】
「副業として、株式会社を設立して企業したいと考えています。本業の方が忙しいので私が全額出資して、知り合いに取締役になってもらおうと思っています。業務全般は私が指示していきたいのですが、会社の業務執行のすべてを株主総会で決定することはできますか?」
大阪の司法書士・行政書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
取締役会を置く会社では、株主総会は会社法に規定する事項と定款で定めた事項に限って、決議をすることができます(会社法第295条2項)。
取締役会を置かない会社では、株主総会が株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができます(会社法第295条1項)。
なので取締役会を置かない株式会社を設立すれば、会社の業務執行のすべてを株主総会で決定することができます。
この場合では、株主が一人になるので株主が会社の業務執行のすべてを決定することができます。
この記事では、株主総会の決議事項についてさらに深掘りして解説します。
株式会社の設立手続きについては、こちらの記事をご覧ください。
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目次
株主総会の決議事項を解説します【普通決議 特別決議 特殊決議】
株主総会で決議しないといけない事項として会社法に規定されているのは、主に次のような事項です。
・普通決議
株式の取得に関する事項の決定(156条1項)
株式無償割当てに関する事項の決定(186条3項)
資料等の調査をするものの選任(316条1項、2項)
会計参与及び会計監査人の解任(339条)
会社・取締役間の訴訟における会社の代表者の選任(353条)
役員・清算人の報酬決定(361条、379条、387条、482条)
競業取引の承認(356条1項)
利益相反取引の承認(365条1項)
会計監査人に対する総会出席要求(398条2項)
計算書類の承認 (438条2項)
清算中の株式会社の貸借対照表の承認(497条2項)
清算結了時の決算報告の承認(507条3項)
準備金の額の減少(448条1項)
剰余金の額の減少(450条2項)
剰余金についてのその他の処分(452条)
剰余金の配当(454条)
・特別決議
譲渡制限株式の買取事項の決定(309条2項1号、140条2項)
指定買取人の指定(309条2項1号、140条5項)
自己株式の取得に関する事項の通知を特定の株主に対してする場合(309条2項2号、156条1項)
全部取得条項付種類株式の取得に関する決定(309条2項3号、171条1項)
株式併合(309条2項4号、180条2項)
募集株式の事項の決定または決定の委任(309条2項5号、199条2項)
新株予約権の事項の決定または決定の委任(309条2項6号)
株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合(309条2項5号、202条3項4号)
株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合(309条2項6号)
募集株式の割当て(309条2項5号、204条2項)
新株予約権の割当て(309条2項6号)
累積投票により選任された取締役の解任(309条2項7号)
監査役の解任(309条2項7号)
役員等の会社に対する損害賠償責任の一部免除(8号、425条1項)
資本金の額の減少(309条2項9号、447条1項)
定款の変更(309条2項11号、466条)
事業の全部の譲渡(309条2項11号、467条1項1号)
事業の重要な一部の譲渡(309条2項11号、467条1項2号)
事業の全部の譲受け(309条2項11号、467条1項3号)
事業の全部の賃貸(309条2項11号、467条1項4号)
事後設立(309条2項11号、467条1項5号)
解散(309条2項11号、第471条)
解散した会社の継続(309条2項11号、473条)
組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転の規定により総会決議を要する場合(309条2項12号)
消滅株式会社等の吸収合併契約等の承認等(783条)
存続株式会社等の吸収合併契約等の承認等(795条)
消滅株式会社等の新設合併契約等の承認(804条)
・特殊決議
全部の株式を譲渡制限とする定款の変更(第309条3項1号)
吸収合併の消滅会社が公開会社で、株主に対して交付する金銭等が譲渡制限株式等である場合における、吸収合併契約の承認(783条、309条3項2号)。
株式交換で完全子会社となる株式会社が公開会社で、株主に対して交付する金銭等が譲渡制限株式等である場合における、株式交換契約の承認(783条、309条3項2号)。
新設合併契約等の承認(804条、309条3項3号)
株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款変更(109条)
取締役会を置く会社は、上記のような事項と、定款で定めた事項に限って、決議をすることができます。
株主総会には、普通決議、特別決議、特殊決議の3つの種類があります。
それぞれ決議要件が異なります。
決議要件が一番厳しいのが特殊決議、次に厳しいのが特別決議、一番決議要件が緩いのが普通決議です。
普通決議
普通決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数が出席して(定足数)、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成によって成立する決議です(会社法309条1項)。
決議を行うために必要な最小限度の議決権の数のことを定足数といいます。
定足数は、株主の人数ではなく、議決権の数(株式の数)で数えます。
この定足数は、定款で変更することができます。
定足数を無くして、決議を成立しやすくすることもできます。
特別決議
特別決議とは、株主総会において議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席して、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立する決議です(会社法309条2項)。
この定足数は定款で変更することができますが、特別決議の場合は定足数を3分の1未満にすることはできません。
特殊決議
特殊決議とは、株主総会において議決権を行使できる株主の半数以上(議決権数ではなく株主の人数)が賛成し、なおかつ株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立する決議です(会社法309条3項)。
定款でさらに要件を厳しくすることもできます。
また剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会の議決権について個々の株主ごとに異なる取扱をする定款変更をする場合にも特殊決議が必要になりますが、この場合の特殊決議はさらに厳しく、総株主の半数以上が賛成し、なおかつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成で成立します(会社法309条4項)。
こちらも定款でさらに要件を厳しくすることができます。
以上が普通決議、特別決議、特殊決議の違いになります。
特別決議が必要な事項について、過半数の賛成だけで可決すると、その事項が無効になることもありますので注意が必要です。
取締役会を置かない会社では、株主総会は会社に関する一切の事項について決議できる
取締役会を置かない会社では上記の事項に限られず、株主総会で会社に関する一切の事項について決議をすることができます(会社法第295条1項)。
なので会社の業務執行全般について、株主総会で決定することもできます。
上記で列挙した場合以外の事項について決定する場合は、普通決議で行います。
会社法に別段の定めがある場合を除いて、普通決議で決議を行うとされているからです(309条1項)。
取締役と株主総会の権限
上記の通り、取締役会を置かない会社では、株主総会が会社に関する一切の事項について決議をすることができます。
一方、取締役会を置かない会社の取締役は、定款で別段の定めをしない限り、会社の業務執行を決定する権限があります。
取締役が2名以上いる場合は、取締役の過半数で業務執行を決定します(会社法348条2項)。
取締役会を置かない会社では、取締役と株主総会の両方が、業務執行の決定権を持つということになります。
もっとも取締役は株主総会の決議を遵守する義務があります。
なので取締役は株主総会で決議した事項に反する決定をすることはできません(会社法355条)。
ただし対外的な取引については、取締役が株主総会の決定に反してした場合でも取引が有効とされる可能性があります。
取締役会を置く会社の場合で、代表取締役が取締役会の決議を経ないでした対外的な取引について、相手方が取締役会の決議を経ていないことを知っていたか、知ることができたときでないかぎり、有効であるとした判例があります(最判昭和40年9月22日)。
取締役会の決議があったかどうかはあくまで会社の内部的なことなので、それよりも取引の安全を優先させたということです。
そのため取締役会を置かない会社においても、取締役が株主総会の決定に反してした対外的取引が有効とされる可能性があります。
株主総会議事録の作成
株主総会については議事録を作成しないといけません。
株主総会議事録については、こちらの記事をご覧ください。
・関連記事 株主総会議事録の作成のポイントをわかりやすく解説します
まとめ
以上、株主総会の決議事項について解説しました。
ほかにも株主総会についての記事がありますので、ご覧ください。
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というわけで今回は以上です。
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