死後事務委任契約とは【葬儀など死後のことを生前に委任】

死後事務委任契約の相談者

「私には子どもがいません。親族は疎遠になっている人ばかりです。なので、葬儀など私の死後のことを任せられる人がいません。このような死後のことを任せられる死後事務委任契約というものがあると聞きました。死後事務委任契約のことをくわしく知りたいです」

 
 

大阪の司法書士、行政書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。

死後事務委任契約とは、葬儀のような死後の様々なことを、生前にあらかじめ第三者に委任する契約です。

死後事務委任契約を締結することで、葬儀のほか、未払いの入院費などの債務の支払いや遺品の引き継ぎなどを任せることができます。

高齢者の単身世帯の増加によって、近年は死後事務委任を専門家などに依頼するケースが増えています。

この記事では、死後事務委任契約について司法書士がわかりやすく解説します。


目次

死後事務委任契約とは【葬儀など死後のことを生前に委任】

死後事務委任契約とは【葬儀など死後のことを生前に委任】

死後事務委任契約は、葬儀、債務の支払いや遺品の引き継ぎなど、自分の死後に行なわなければならないことを生前にあらかじめ第三者に任せる契約です。

近しい親族がいる場合、これらのことは親族が行うことが多いですが、身寄りの方がいらっしゃらないと、誰も自分の死後のことをやってくれないということになります。

また親族がいても、疎遠だったり、親族に負担をかけたくないということもあります。

そこで死後事務委任契約を生前に締結しておくことで、第三者に死後のことを任せることができます。


死後事務委任契約が有効なケース

死後事務委任契約が有効なケース

死後事務委任契約を締結すべきなのは、次のようなケースです。

・子どもや兄弟姉妹がいない

・親族はいるが疎遠である

・親族はいるが遠方に住んでいる

・親族はいるが高齢だったり、病気がある


このような場合は、親族が死後事務を行うことが難しいかと思われるため、死後事務委任契約を検討した方がいいかもしれません。

また、親族はいるけど、葬儀の方法にこだわりがあり、葬儀の方法をあらかじめ指定しておきたい場合などにも有効です。

死後事務委任契約で任せられること

死後事務委任契約は、委任者(依頼者)と受任者(死後事務を行う人)の契約なので、双方の合意により死後事務の内容を自由に決めることができます。

具体的にはたとえば次のようなことを任せることができます。

・葬儀

・納骨

・法要

・永代供養に関する事務

・親族や知人への連絡

・家賃、入院費や老人ホーム等施設利用料などの債務の精算

・家財道具などの処分

など


いろいろありますが、死後事務は大きく分けて以下の3つがあります。

・葬祭に関する事務

・行政手続

・債務の支払い等


死後事務1 葬祭に関する事務

死後事務

葬儀、火葬や納骨など葬祭に関することです。

葬儀の方法などについて希望があっても、それを実行してくれる人がいないと実現しません。

そこで、死後事務委任契約で、生前に葬儀の方法などの希望を伝えておけば、その通りに実行してくれるというわけです。

葬祭に関しては、葬儀の規模や、誰に参列してほしいか、墓地はどこかなど、生前によく話し合って決めるべきでしょう。


死後事務2 行政手続

行政手続

年金、社会保険などの行政手続です。

具体的には、保険証等の返納や、未払い保険料の支払いや還付金の受領等です。


死後事務3 債務の支払い等

亡くなった時に残った入院費や施設利用料、家賃などの債務の支払いです。

受任者がご本人の財産の中から支出します。

またご本人が生前借りていたマンションの明渡なども行います。

残った物の処分方法は、死後事務委任契約に定めておき、受任者の処分権限を明示します。


死後事務委任契約書

死後事務委任契約書

死後事務委任契約は当事者同士の契約なので、具体的な内容は話し合って決めますが、一般的な死後事務委任契約書は次の通り。

     死後事務委任契約書

                                 令和  年  月  日

    委任者の表示
    本  籍 大阪府大阪市〇〇町*丁目*番
    住  所 大阪府大阪市〇〇町*丁目*番*-***号
    氏  名 浪花 月子(なにわ つきこ)(仮名)
    職  業 無職
    生年月日 昭和**年*月*日
    
   受任者の表示
    住  所  大阪府大阪市〇〇町*丁目*番
     事務所  大阪府大阪市〇〇町*丁目*番
    氏  名 大阪 太郎(おおさか たろう)(仮名)
    職  業 司法書士
    生年月日 昭和**年*月*日

第1条(契約の趣旨)
委任者浪花月子(以下、「浪花さん」という。)は、受任者大阪太郎(以下、「大阪さん」という。)に対し、浪花さんと大阪さんとの間で本契約と同時に締結する「任意後見契約」に付随する契約として、浪花さんの死亡後における事務を委任し、大阪さんはこれを受任します。

第2条(委任事務の範囲)
 浪花さんは、大阪さんに対し、浪花さんの死亡後における次の事務(以下、「本件死後事務」という。)を委任します。
 ① 菩提寺・親族等関係者への連絡事務
 ② 通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬、永代供養に関する事務
 ③ 医療費、老人ホーム等の施設利用料その他一切の債務弁済事務
 ④ 家財道具や生活用品の処分に関する事務
 ⑤ 行政機関等への諸届け事務
 ⑥ 別途締結した「任意代理契約」における委任事務や別途締結した「任意後見契約」における後見事務の未処理事務
 ⑦ 以上の各事務に関する費用の支払い
2 浪花さんは、大阪さんに対し、前項の事務処理をするにあたり、大阪さんが復代理人を選任することを承諾します。

第3条(通夜・告別式)
 前条第1項の通夜および告別式は、浪花さんに応分の会場で行います。
2 浪花さんの通夜及び告別式での読経は、次の寺に依頼します。
   ○○寺
    所在 大阪府○○市○○町○○丁目○○番○○号
    電話 
3 前2項に要する費用は、金○○○万円(消費税別途)を上限とします。

第4条(納骨・埋葬・永代供養)
 第2条第1項の納骨・埋葬は、次の場所にて行います。
   ○○寺
    所在 大阪府○○市○○町○○丁目○○番○○号
    電話 
 2 第2条第1項の永代供養は、前項の場所にて行います。但し、永代供養に関する事務は前項の寺に依頼することをもって終了します。     
 3 前2項に要する費用は、金○○○万円(消費税別途)を上限とします。

第5条(連絡)
浪花さんが死亡したときは、大阪さんは、速やかに、浪花さんが予め指定する親族等関係者に連絡するものとします。

第6条(費用の負担)
 大阪さんが本件死後事務を処理するために必要な費用は、浪花さんの負担とします。
2 大阪さんは、前項の費用につき、その支出に先立って、浪花さんの遺言執行者または相続人より、浪花さんの遺産の中から支払いを受けることができるものとします。

第7条(報酬)
 浪花さんは、大阪さんに対し、本件死後事務の報酬として、金    円(消費税別途)を支払うものとし、本件死後事務終了後、浪花さんの遺言執行者または相続人より、浪花さんの遺産の中から支払うものとします。

第8条(契約の変更)
浪花さんまたは大阪さんは、浪花さんの生存中、いつでも本契約の変更を求めることができます。

第9条(契約の解除)
 浪花さんは、大阪さんに次の各号の一に該当する事由が発生したときでなければ、本契約を解除することはできません。
 ① 大阪さんが浪花さんの財産を故意または過失により毀損し、その他大阪さんの行為が浪花さんに対して不法行為を構成し、そのために大阪さんとの信頼関係が破壊したとき。
 ② 大阪さんが本件死後事務を遂行することが困難となったとき。
2 大阪さんは、経済情勢の変化、その他相当の理由により本契約の達成が不可能若しくは著しく困難となったときでなければ、本契約を解除することはできません。

第10条(委任者の死亡による本契約の効力)
 浪花さんが死亡した場合においても、本契約は終了せず、浪花さんの相続人は、委託者である浪花さんの本契約上の権利義務を承継するものとします。
2 浪花さんの相続人は、前項の場合において、前条第1項記載の事由がある場合を除き、本契約を解除することはできません。

第11条(契約の終了)
本契約は、以下の事由により終了します。
 ① 大阪さんが、死亡または破産したとき
 ② 浪花さんと大阪さんが別途締結した「任意後見契約」が、浪花さんの死亡以外の事由で終了したとき

第12条(報告義務)
   大阪さんは、遺言執行者または相続人または相続財産管理人に対し、本件死後事務終了後1か月以内に、本件死後事務に関する次の事項について書面で報告します。
 ① 本件死後事務につき行った措置
 ② 費用の支出及び使用状況
 ③ 報酬の収受

第13条(守秘義務)
大阪さんは、本件死後事務に関して知りえた秘密を、正当な理由なく第三者に漏らしてはなりません。但し、第13条に関する報告についてはこの限りではありません。

第14条(協議)
本契約に定めのない事項及び疑義ある事項については、浪花さん及び大阪さんが協議して定めます。

 

死後事務委任契約と遺言の違い

死後事務委任契約と遺言の違い

遺言は死後事務委任契約と同様、死亡によってスタートするものが遺言です。

しかし、葬儀や埋葬方法の指定は遺言の記載事項ではありません。

遺言に記載することはできますが、法的拘束力はないので、その通りに実行してもらえるかはわかりません。

なので葬祭について確実に希望をかなえてもらいたい場合は、遺言ではなく死後事務委任契約をする必要があります。

死後事務委任契約と遺言は役割が異なるため、死後事務委任契約と遺言の作成を同時にすることもよくあります。


死後事務委任契約の流れ

死後事務委任契約の流れは次の通りになります。

依頼内容の確定

  ↓

死後事務委任契約書の作成

  ↓

費用のお預かり

  ↓

ご逝去

  ↓

死後事務の実行

  ↓

報酬・費用の精算、相続人への報告

 

死後事務委任契約の流れ1 依頼内容の確定

死後事務委任契約の流れ1 依頼内容の確定

死後事務委任契約の内容を話し合います。

すでに遺言を作成している場合は、遺言の内容と抵触していないか確認する必要があるので、死後事務を依頼する専門家に遺言を見せる必要があります。


死後事務委任契約の流れ2 死後事務委任契約書の作成

死後事務委任契約の内容が決まったら、契約書を作成します。

死後事務委任契約書は公正証書で作成するのがおすすめです。


死後事務委任契約書の流れ3 費用等のお預かり

死後事務のために必要な費用や報酬を契約の段階で預かる場合が多いかと思います。

事前に費用等を預からない場合は、死後事務を執行する専門家が一旦費用を立て替え、後で相続人に請求することになりますが、相続人が死後事務委任契約の件を知らない場合に費用の精算に異議を唱えてトラブルになる可能性があります。

このようなトラブルを防ぐためにも預かり金を設定することが多いのです。


死後事務委任契約書の流れ4 ご逝去

死後事務委任は委任者の死後のことについての契約なので、委任者がご逝去することによってスタートします。


死後事務委任契約書の流れ5 死後事務の実行

死後事務委任契約の内容である死後事務を実行します。


死後事務委任契約書の流れ6 報酬・費用の精算、相続人への報告

預かり金の中から報酬や死後事務費用を精算し、残ったお金を相続人に引き渡します。


死後事務委任契約の注意点

死後事務委任契約には次のような注意点があります。

・公正証書

・相続人・親族の同意

・遺言と矛盾しないように


死後事務委任契約の注意点1  公正証書

死後事務委任契約はできれば、公正証書で契約書を作成すべきです。

公正証書とは、公証人という公務員が作成する公文書のことです。


公証人という中立的な立場の人が作成するので、当事者だけで作成した契約書と比べて証拠能力が高いものになります。

死後事務委任契約は通常の契約と異なり、委任者がお亡くなりになった後に、受任者の事務がスタートします。

当事者の一方が亡くなった後にスタートするので、本人が生前に自分の意思で契約したことを確実に証明するために公正証書で死後事務委任契約書を作成するべきなのです。


死後事務委任契約の注意点2 相続人・親族に知らせておく

相続人や親族がいる場合、これらの人に事前に死後事務委任契約のことを知らせておいた方がいいでしょう。

死後事務委任契約の内容によっては、相続人や親族に不利益になる可能性があるため、事前に知らせておかないとトラブルになる可能性があるからです。


死後事務委任契約の注意点3 遺言と矛盾しないように

死後事務委任契約と遺言の作成を同時にすることはよくありますが、その場合、死後事務委任契約の内容は遺言と矛盾しないようにしないといけません。

たとえば葬儀に関する事項など死後事務には費用がかかってしまいますので、遺言で財産を誰かに遺贈する場合は、次のように遺言書に記載します。

「遺言者は別途作成する死後事務委任契約書に記載の死後事務に関する費用・報酬を支払った残預金を〇〇に遺贈する」

遺言の執行と死後事務の執行をスムーズにするために死後事務委任の受任者と遺言執行者は同じ人にするのが望ましいでしょう。

・関連記事 遺言執行者とは?【遺言の内容を実現するために動く人】


死後事務委任契約と同時にすることが多いもの

死後事務委任契約は次の契約等と同時にすることが多いようです。

・遺言

・任意後見契約

・財産管理等契約(任意代理契約)

・見守り契約


死後事務委任契約と同時にすることが多いもの1 遺言

死後事務委任契約と同時にすることが多いもの1 遺言

上述の通り、遺言は死後事務委任契約は同時にすることが多いです。

死後事務委任契約が必要な方は遺言も必要になることが多いからです。

死後事務委任契約も遺言も公正証書にすることが多いので、同時にした方が手間がかかかりません。


死後事務委任契約と同時にすることが多いもの2 任意後見契約

任意後見契約とは、自分が認知症などで判断力が低下した場合に自分の財産を管理する後見人を指名する契約です。

通常、認知症などで財産管理ができなくなり、後見人をつけることになった場合、家庭裁判所が後見人を選任します。

任意後見契約では自分の信頼する人をあらかじめ後見人に指定しておくことができます。

死後事務委任契約は、頼れる親族がいないときにすることが多いので、自分が認知症になった場合に備えて任意後見契約も同時にすることが多いのです。

任意後見契約についてくわしくはこちら

・関連記事 任意後見とは 司法書士がわかりやすく解説【成年後見との違い】


死後事務委任契約と同時にすることが多いもの3 財産管理等契約(任意代理契約)

財産管理等契約(任意代理契約ともいいます)とは、判断能力が十分なうちに、信頼できる人に財産管理を任せる契約のことです。

任意後見は認知症などで判断力が低下した場合に、財産管理を任意後見人に任せる契約ですが、判断力が低下する前から財産管理を任せるのが財産管理等契約です。

まだ認知症などはすすんでいないけれど、身体が不自由で不安な方などに利用されています。

くわしくはこちら。

・関連記事 財産管理委任契約(任意代理契約)とは?【任意後見】


死後事務委任契約と同時にすることが多いもの4 見守り契約

見守り契約とは、定期的にご本人の安否、体調を確認し、今後の生活や財産管理についてアドバイスする契約です。

死後事務委任契約は、ご本人が亡くなった後にスタートするので、亡くなったことを把握しないといけません。

そのため、死後事務委任の受任者が、定期的に安否確認する見守り契約を締結することが多いのです。


死後事務委任は誰に依頼するか

死後事務委任契約は司法書士などの専門家に相談しましょう。

死後事務委任契約は亡くなる人が当事者になるという特殊な契約なので、法律専門職に依頼するのが安心です。

大阪の方なら当事務所でも承っております。

まずはお気軽にご相談ください

初回相談無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

ご相談は、電話(06-6356-7288)か下記のメールフォームからお問い合わせください。

メールフォーム

 

まとめ

以上、死後事務委任契約について解説しました。

まとめると次の通り。
・死後事務委任契約は、生前に葬儀や費用支払いを第三者に委任する契約。
・内容の整合性と証拠能力を確保するため、死後事務委任契約は公正証書でするのがおすすめ。
・司法書士や行政書士などの専門家に相談するのが安心で信頼できる。

 

今回は以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

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