取締役を辞任したのに会社が登記しないとき【商業登記先例解説】
「私はある会社の取締役を務めていましたが、一身上の都合により3か月前に辞任しました。しかし、いくら会社に辞任の登記をしてほしいと言っても、会社が辞任の登記をしてくれません。私の方で辞任の登記を申請することはできるのでしょうか?」
大阪の司法書士の田渕です。こういった疑問にお答えします。
このような事例について、登記先例があります。
株式会社の代表取締役が、会社役員の辞任による変更登記申請をしないため、辞任した役員が会社に対し、辞任登記請求の訴えを提起し、勝訴の判決確定したときは、民事訴訟法736条の規定により辞任した役員が登記権利者として登記の申請ができる(昭和30年6月15日民事甲1249)。
つまり、会社に訴えを起こして勝訴すれば、自分で辞任の登記をすることができるということです。
この記事では、この登記先例について、司法書士が深堀りして解説します。
目次
取締役を辞任したのに会社が登記しないとき【商業登記先例解説】
会社の登記申請は、代表取締役が会社を代表して行います。
なので、本来は取締役を辞任した人は、自ら辞任の登記を申請することはできません。
しかし、辞任の登記を求める訴えを提起して、勝訴の判決が確定したときは、辞任した取締役が自ら辞任の登記を申請することができます。
会社が辞任した取締役の辞任登記をせずに取締役の登記が残ったままでも、積極的に取締役として対外的または内部的な行為をしたような場合を除いては、取締役は役員としての責任を負いません(最判昭和62年4月16日)。
しかし、第三者がそのような事情が分からずに責任追及の訴えを起こしてくる可能性があります。
そこで辞任の登記を求める訴訟で勝訴した取締役は、自ら辞任の登記を申請することができるとされています。
辞任の登記を申請するまでの流れをまとめると次の通りになります。
辞任の登記を求める訴えを提起
↓
辞任の登記を求める訴えで勝訴
↓
辞任の登記を申請
また任期満了による退任など、辞任以外の理由でも同様です。
権利義務取締役については辞任登記できない
しかし、辞任の登記を申請できない場合があります。
権利義務取締役については、次の取締役が就任するまで辞任することができないので、辞任登記できません。
権利義務取締役とは、取締役が任期満了または辞任したことで取締役の数が足りなくなる場合に、後任の取締役が就任するまで、取締役としての仕事を行う取締役のことです。
取締役につき、法律・定款で定めた定員に足りない場合には、任期の満了または辞任により退任した取締役は、新たに選任された取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有するとされています(会社法346条1項)。
このことは代表取締役に欠員が出た場合も同様です。
同時に数名の取締役が退任して取締役の定員に足りなくなる場合は、退任したすべての取締役が権利義務取締役になります(昭和37年8月18日民事甲2350号)。
この場合は、後任の取締役が就任して、取締役につき法律・定款で定めた定員に足りるようになれば、辞任の登記を申請できるようになります。
なお、後任の取締役の就任と同時に、権利義務取締役の退任登記を申請する場合、退任の日付は、任期満了の日または辞任の日です。
後任の取締役が就任した日ではないので、ご注意ください。
辞任の登記を求める訴えの訴状作成や登記申請は司法書士に依頼できる
辞任の登記を求める訴えの訴状の作成や、辞任の登記申請については司法書士に依頼できます。
困っている場合は、ぜひお近くの司法書士にご相談ください。
大阪周辺の方でしたら、当事務所でも承っていますので、お気軽にご相談ください。
ご相談の方は、電話(06-6356-7288)か、こちらのメールフォームからお問い合わせください。
まとめ
以上、会社が取締役の辞任登記をしない場合について解説しました。
当事務所のホームページでは、ほかにも会社・法人について解説していますので、ぜひご覧ください。
というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。