認知症であっても遺言を作成できる?遺言能力について解説
「私には、軽度の認知症がある父がいます。母はすでに他界しており、子どもは私と兄の2人です。兄は何度も借金してきており、そのたびに父が肩代わりしてきました。また父の介護もすべて私がしています。なので父は私に全財産を相続させる遺言を書きたいと考えてくれています。認知症があっても遺言を書くことはできるのですか?」
大阪の司法書士・行政書士の田渕です。
こういった疑問にお答えします。
認知症があるからといって必ずしも遺言を作成することができないとは限りません。
もっとも、まったく問題がないわけでもありません。
この記事では、認知症であっても遺言を作成できるのかについて、わかりやすく解説します。
遺言書の書き方一般については、こちら。
目次
認知症であっても遺言を作成できる?遺言能力について解説
認知症があっても、軽度で、遺言を作成できる程度に判断能力があれば遺言を作成することができます。
認知症が重度で、判断能力がかなり低下している場合に複雑な内容の遺言を作成するのは避けた方がいいでしょう。
このような場合に、本人が内容をよく理解できないまま、形式的に遺言を書かせると、後々相続争いになる可能性が非常に高いからです。
これは公証人が関与する公正証書遺言であっても同じです。
遺言能力
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない、とされています(民法963条)。
遺言を作成することができる能力を遺言能力といいます。
認知症で症状が進行しており、判断能力がない状態になっている場合は、遺言能力なしとして遺言は無効になる場合があります。
どのような場合に遺言能力があるかについては、ケースバイケースですので、判断が非常に難しいところです。
軽度の認知症であっても、後々相続人から遺言の無効について主張され、相続トラブルになるリスクはある程度考慮しておくべきかと思います。
遺言能力について後々のトラブルの予防策
たとえ、遺言能力がある場合であっても、後々遺言能力があったかどうかについて争いになる可能性はあります。
そこで、遺言を作成するにつき、将来の争いが予想される場合は、遺言能力についての証拠を残しておくべきです。
たとえば、医者の診断書を残しておいたり、遺言のほかに遺言者が、遺言書を作成した意図や想いについて映像を録画しておくなどです。
映像に残しておくことで、相続人は自己に不利な内容の遺言だったとしても、納得しやすくなるでしょう。
成年被後見人は遺言を作成できるか
成年被後見人であっても、遺言を作成できる場合があります。
成年後見制度は、認知症などで、自分で財産を管理できない人の代わりに成年後見人が本人(成年後見被後見人)の財産を管理する制度です。
成年被後見人が遺言を作成するには、事理を弁識する能力を一時回復した時において、医師2人以上の立会いが必要になります(民法973条1項)。
この場合において、遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に記載して、これに署名し、印を押さないといけません(民法973条2項)。
このような手続きを経ていても、あとで遺言が無効になる可能性がないわけではありません。
成年被後見人による遺言については大きなリスクがあることには注意が必要です。
被保佐人、被補助人は遺言を作成できるか
被保佐人とは、事理弁識能力が著しく不十分な人をいいます。
被補助人とは、事理弁識能力が不十分な人をいいます。
もっとも症状が重いケースの方が成年被後見人、もっとも症状が軽いケースの方が被補助人、中程度の方が被保佐人です。
成年被後見人とは違い、被保佐人や被補助人が遺言を作成することについては、制限はありません。
もっとも、被保佐人や被補助人であっても症状が進行することはあり、遺言を作成した当時に遺言能力があったとは必ずしも言い切れないため、後々相続争いになるリスクはあります。
なので、被保佐人や被補助人が遺言を作成することについては慎重になるべきでしょう。
まとめ
以上、認知症であっても遺言を作成できるのかについて解説しました。
認知症があるからといって必ずしも遺言を作成することができないわけではありません。
しかし、認知症の方が遺言を作成することには相続争いになるリスクがあります。
それでも遺言を作成する場合は、医師の診察を受け診断書を作成してもらう、遺言者の生活状況や病状などをくわしく記録しておくなど、後々トラブルになった場合に備えて、できる限り証拠を残しておくべきかと思います。
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というわけで今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。