離婚の慰謝料についてわかりやすく解説【協議書の記載例など】

離婚の相談者

「夫と離婚することになりました。離婚は夫の不貞行為によるものなので慰謝料を請求したいと思います。離婚の慰謝料について教えてください」

 

 
 

大阪の司法書士・行政書士の田渕です。お答えします。

故意、過失によって他人の権利を侵害した者は、損害を賠償する責任を負うとされています(民法709条)。

この「損害」については、精神上の損害も含まれます。

このように精神上の損害を賠償するために支払われる金銭を慰謝料といいます。

離婚の場合、配偶者の不貞や暴力などによって精神的な苦痛を受けたときは慰謝料を請求することができます。

この記事では、離婚の慰謝料について、わかりやすく解説します。

 

離婚の慰謝料についてわかりやすく解説【協議書の記載例など】

離婚

離婚の慰謝料は、離婚原因を作りだした配偶者(有責配偶者といいます)に対して、もう一方の配偶者が請求することができます。

たとえば、夫婦のどちらか一方に不貞行為があった場合や、暴力があった場合、犯罪をした場合、悪意の遺棄があった場合、性交渉を拒否したような場合です。

長い婚姻期間の中で、どちらかに明らかな離婚原因がなく、なんとなく不仲になり離婚になったような場合には、どちらにも責任がないため、慰謝料は発生しません。

慰謝料を支払うことで離婚原因が自分にあることを認めることに抵抗がある人は、慰謝料という言葉を使わず、「解決金」という名目で金銭を支払うことがあります。

調停においては、夫婦の破綻原因は双方にあるとして、慰謝料は否定的に考えられる傾向があり、「解決金」という表現を取られることがあります。

また、慰謝料を、養育費、財産分与、婚姻費用などに含めて支払うこともあります。

ただし、このように慰謝料について、明確に取り決めず、あいまいなままにしておくと、後々、紛争になることも考えられます。

なので、離婚協議書を作成する際には、できるだけ慰謝料についてもはっきりと取り決めておくことをお勧めします。


離婚の慰謝料の種類

慰謝料

離婚の慰謝料には、2つの種類のものがあります。

  1. 1 離婚そのものによる精神的苦痛に対する慰謝料
  2. 2 不貞行為や暴力など個別の不法行為による精神的苦痛に対する個別の慰謝料


離婚そのものによる精神的苦痛に対する慰謝料

離婚そのものによる精神的苦痛に対する慰謝料は、相手方の責任によって離婚をやむなくされたことによる精神的苦痛に対する損害賠償のことです。

不貞行為や暴力など個別の不法行為がある場合は、離婚そのものの慰謝料とは別に、個別の行為の慰謝料を請求することもできます。

もっとも、離婚協議の場では、これらを区別せずに、離婚そのものの慰謝料と、個別の行為の慰謝料をひとまとめにして慰謝料の額を取り決めることがほとんどです。

ただし、離婚そのものの慰謝料と、個別の行為の慰謝料をまとめて慰謝料の額を取り決める場合は、後日の紛争を避けるためにも、その旨をはっきりとさせ、離婚協議書に記載しておきましょう。


不貞行為や暴力など個別の不法行為による精神的苦痛に対する個別の慰謝料

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婚姻中に夫、妻に不貞行為または暴力などがあれば、配偶者の精神的苦痛に対する慰謝料が発生します。

ただし、別居して、すでに婚姻生活が破綻している後に不貞行為があっても、不貞行為についての慰謝料は発生しません。

もっとも、不貞行為は離婚原因になるので、不貞行為の結果として離婚することになった場合は、離婚自体についての慰謝料は発生し、不貞行為による精神的苦痛についての慰謝料はこれに含まれることになります。


第三者への慰謝料の請求

離婚

夫婦の一方に不貞行為があった場合、相手が既婚者であることを知っていた不倫相手は、不貞行為を行った夫または妻とともに慰謝料の支払い義務を負うことになります。

不貞行為によって夫婦が離婚に至らなかった場合でも、慰謝料を請求できます。

この場合も、他の理由ですでに婚姻生活が破綻した後に不貞行為があった場合は、慰謝料の支払い義務を負いません。

また姑など相手方の親族のいじめなどが原因で離婚することになった場合、その親族に対して慰謝料を請求できます。


離婚の慰謝料の額

慰謝料の額は、次の事項などを考慮して、当事者同士で合意して取り決めることになります。

  1.  ・責任の程度
  2.  ・背信性の程度
  3.  ・精神的苦痛の程度
  4.  ・婚姻期間
  5.  ・当事者の社会的地位や資産、収入
  6.  ・未成熟な子がいるかどうか


慰謝料の額はケースバイケースです。

一律に「この場合は、いくらです」と言い切れるものではありません。

これまでの裁判例によると、慰謝料の平均額は200万円程度です。

不貞行為があった場合は300万円程度が相場のようです。

暴力があった場合では、夫の暴力が原因で後遺症が残った事例で、離婚による慰謝料350万円のほか、入通院の慰謝料、後遺障害の慰謝料などを合わせて計1714万円の支払を命じた判例があります(大阪高判平成12年3月8日判時1744号91頁)。


話し合いがまとまらない場合は、調停

調停

もし慰謝料の話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に慰謝料について調停を申し立てることができます。

調停とは、調停委員という裁判所の職員が間に入って、当事者が話し合う制度です。

調停委員がそれぞれの主張を整理して、落としどころを調整してくれます。

当事者だけでは感情的になって話し合いがうまくいかなくても、第三者が間に入ることで、話し合いがまとまる場合があります。

調停で話し合いがまとまると、慰謝料について記載された調停調書が作成されます。

調停調書は、裁判の判決と同じ効力があるので、もし相手方が慰謝料を払わなくても、強制執行により相手方から取り立てることができます。

もし調停でも話がまとまらなければ訴訟を提起することになります。


離婚の慰謝料と財産分与

離婚の慰謝料を財産分与の額の中に含めることもできます。

ただし、本来、慰謝料と財産分与はまったく別のものですので、後々争いにならないように、離婚協議書には慰謝料を含めて財産分与を取り決めることをはっきりと記載するべきです。

財産分与に含めることができるのは、離婚についての慰謝料のみです。

婚姻中の暴力などについての慰謝料は、婚姻中の暴力などが離婚原因である場合を除いて財産分与に含めることはできません。


離婚の慰謝料の時効

離婚の慰謝料には時効があります。

離婚のときから3年です。

暴力があった場合の慰謝料は、5年です。

この期間を過ぎると請求できなくなってしまいます。

慰謝料はできれば離婚する前に取り決めてから離婚した方がいいのですが、とにかく早く離婚してから、慰謝料などを交渉するという方もいるかと思います。

その場合は注意が必要です。


慰謝料についての離婚協議書の記載例

慰謝料について離婚協議書に記載する場合の記載例はこちらです。

ただし、離婚協議書については、それぞれケースバイケースですので、それぞれの事情に合わせて作成する必要があります。

  1. 第〇条 甲は、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金〇円の支払義務があることを認め、令和〇年〇月〇日までに、乙名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
  2. 第〇条 甲及び乙は、本件に関し、本協議書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを確認し、今後、名目の如何を問わず、互いに金銭その他一切の請求をしない。


せっかく慰謝料について取り決めて、離婚協議書を作成しても、慰謝料の支払い義務がある相手方が、慰謝料を支払ってくれ場合、裁判を起こして、強制執行しないと相手方から取り立てることができません。

ただし、離婚協議書を公正証書で作成し、支払わないときは強制執行に服する旨(強制執行認諾文言といいます)を公正証書に記載した場合は、裁判を起こすことなく、これに基づいて強制執行することができます。

なので、できれば離婚協議書は公正証書で作成するといいでしょう。

強制執行認諾文言の記載例はこちら。

  1. 第〇条 甲は本協議書第〇条に定める金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。


すでに離婚の慰謝料を支払っている場合

離婚協議書の作成時点ですでに慰謝料を支払っている場合の記載例です。

  1. 第〇条 甲及び乙は、甲が、令和〇年〇月〇日、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金〇円を支払ったことを確認する。
  2. 2 甲及び乙は、本件に関し、本協議書に定めるもののほか、何らの債権債務のないことを確認し、今後、名目の如何を問わず、互いに金銭その他一切の請求をしない。


慰謝料の支払い時に領収書を作成している場合でも、後日の争いを防ぐためにも、離婚協議書に記載するべきでしょう。


慰謝料を分割で支払う場合

  1. 第〇条 甲は、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金〇円を支払う義務があることを認め、これを分割して、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月まで、毎月〇日までに、3万円ずつ、乙名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。
  2. 第〇条 甲が前条の分割金の支払を滞納し、その額が6万円に達したときは、甲は当然に期限の利益を失い、乙に対し、金〇円からすでに支払った額を控除した残額及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済まで年3%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。
  3. 第〇条 甲及び乙は、本件に関し、本協議書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを確認し、今後、名目の如何を問わず、互いに金銭その他一切の請求をしない。


慰謝料を分割で支払う場合の記載例です。

分割で支払う場合についても、強制執行認諾文言付きの公正証書で作成すれば、裁判を起こすことなく強制執行をすることができます。

しかし、それだけでは毎月強制執行の手続きをすることになって、面倒です。

そこで、分割支払いを滞納した場合は、ただちに残額すべてを一括で請求できる旨の取り決めをする必要があります。

これを期限の利益喪失約款といいます。

ここでは、月3万円の分割払いを2回分、計6万円の支払いを怠ったときに、ただちに残額すべてを一括で請求できるようにしています。


慰謝料の一部を支払い、残りを分割で支払う場合

慰謝料の一部を先に支払って、残りを分割で支払う場合の記載例です。

  1. 第〇条 甲は、乙に対し、甲乙間の離婚に伴う慰謝料として金200万円の支払義務があることを認める。
  2. 第〇条 甲は、乙に対し、前条の金額のうち金100万円を本日乙に交付し、乙はこれを受領した。
  3. 第〇条 甲は、乙に対し、残額の金100万円につき、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月まで、毎月〇日までに、3万円ずつ、乙名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。
  4. 第〇条 甲が前条の分割金の支払を滞納し、その額が6万円に達したときは、甲は当然に期限の利益を失い、乙に対し、金〇円からすでに支払った額を控除した残額及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済まで年3%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。
  5. 第〇条 甲及び乙は、本件に関し、本協議書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを確認し、今後、名目の如何を問わず、互いに金銭その他一切の請求をしない。


離婚の慰謝料および財産分与をまとめて支払いを定めた場合

慰謝料と財産分与をまとめて支払う場合です。

後々争いにならないように、慰謝料も含めて支払うことをしっかり明記しておきましょう。

  1. 第〇条 甲は、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料及び財産分与として金〇円を支払う義務があることを認め、これを分割して、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月まで、毎月〇日までに、3万円ずつ、乙名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。
  2. 第〇条 甲が前条の分割金の支払を滞納し、その額が6万円に達したときは、甲は当然に期限の利益を失い、乙に対し、金〇円からすでに支払った額を控除した残額及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済まで年3%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。
  3. 第〇条 甲及び乙は、本件に関し、本協議書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを確認し、今後、名目の如何を問わず、互いに金銭その他一切の請求をしない。


まとめ

以上、離婚の慰謝料について解説しました。

離婚したときは、早く離婚したい気持ちから、十分な話し合いをしないまま決めてしまいがちです。

しかし、離婚の際は、慰謝料以外にも取り決めるべきことがあります。

どんなことを取り決めておいた方がいいのか悩んでいる場合は、専門家に相談してみましょう。

大阪の方なら当事務所でも承っています。

相談窓口

当事務所は、大阪の司法書士・行政書士事務所です。

当事務所の離婚手続きサポートサービスの詳細はこちら。

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というわけで今回は以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。