養育費とは?離婚の際に取り決めること【計算方法などを解説】

「この度、夫と離婚することになりました。私たちの間には子どもが一人います。子どもは私が育てていきます。しかし、私の収入だけでは子どもを育てていくことは難しいので、相手には養育費を請求したいと思っています。養育費について教えてもらえますか」

離婚相談の夫婦


大阪の司法書士・行政書士の田渕です。お答えします。

養育費とは、生活費や教育費など、子どもが自立するまでに必要な費用のことです。

親権・監護権を持たない親は、子どもを養育する親に対して養育費を支払う義務があります。

養育費は、離婚する際にはぜひ取り決めておくべき事項です。

この記事では、養育費についてわかりやすく解説します。

養育費とは?離婚の際に取り決めること【計算方法などを解説】

夫婦問題

養育費とは、子どもが自立するまでに必要な費用のことです。

食費、衣料費、住居費、教育費などが含まれます。

一方、ピアノのレッスン費(広島地決平5・8・27)や日本舞踊の稽古代(大阪高決昭和37・1・31)などは養育費には含まれないとの判例があります。

離婚の際には、ぜひ養育費について取り決めておくべきです。

離婚の際に養育費の取り決めていなかったとしても、離婚後に相手に養育費を請求することは可能です。

しかし、養育費の支払いが認められるのは原則として、養育費を請求した日以降の分だけです。

また離婚した後では、養育費について話し合うことが難しくなる場合もあることから、養育費については離婚の際に取り決めておくのが望ましいでしょう。

養育費の計算方法

養育費の具体的な金額、支払時期および支払方法などは、父母が協議して決定します。

養育費については、早く離婚したい気持ちから、十分な話し合いをしないまま相手方が一方的に要求する金額で合意してしまったり、逆に非常に高額な金額で合意してしまったために、支払が滞ったりする場合があります。

養育費を取り決めるにあたっては、子どもの利益を最も優先して考慮しないといけません。

子どもの利益のためにも、継続的で安定した養育費の支払いを維持することが大切です。

養育費の金額の相場については、家庭裁判所が「標準算定表」というものを公表しています。

標準算定表とは、家庭裁判所が適切な養育費を算定する際に用いている計算式のことです。

家庭裁判所では、この標準算定表が参考資料として広く活用されていることから、協議離婚の際に養育費を算定する場合にも、この標準算定表を活用して、養育費の額を取り決めることが一般的です。

標準算定表については、裁判所のホームページで確認できます。

  1. ・外部リンク 裁判所 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

 

養育費の支払時期については、標準算定表が月額表示であることから、月ごとに支払日を取り決めることが一般的です。

また支払方法については、親権者または子名義の金融機関の口座に振り込む方法が一般的です。

標準算定表の見方

標準算定表

上記の図は、0歳~14歳の子どもが1人いる場合の標準算定表です。

縦軸に義務者(養育費を支払う親)の、横軸に権利者(子の親権者・監護者)の、それぞれの年収が、給与所得者と自営業者ごとに記載されています。

義務者の収入欄を右方向へ、権利者の収入欄を上方向へ伸ばして、交差する四角形が含まれている枠に記載されている金額が、養育費の標準的な金額になります。

たとえば、義務者が自営業者で年収が601万円、権利者が給与所得者で年収が250万円の場合、それぞれの欄が交差するところは、6~8万円となっています(下記の表の赤で囲んだ部分)

標準算定表

つまり養育費について、6万円から8万円の幅の中で協議によって定めることになります。

ここで、義務者の年収が225万円と250万円の間の場合は、近い方にします。

なお標準算定表は、統計値などをもとに標準的な金額として記載されているもので、絶対的な金額ではありません。

たとえば、標準算定表では、私立高校や国公立を含む大学の入学金や授業料などは前提とされていないため、こうした個別的事情がある場合には、それらの事情を考慮して、協議によって具体的な養育費の金額を決定することが必要になります。

養育費の対象となる子ども

養育費の対象になるのは、未成熟な子どもです。

未成熟子

未成熟な子とは、自分の資産・労力で自立した社会生活を営む能力がない子どものことです。

たとえば未成年であっても、中学校を卒業して社会人として独立している場合は、未成熟な子どもとは言えません。

反対に、成人していても、親の経済的負担のもとで就職せずに大学で勉強している子どもは、未成熟な子どもといえます。

養育費の支払い期間について取り決める場合、離婚から高校卒業までを目安にしつつも、両親の収入なども考慮して、子どもが大学まで進学することが見込まれる場合は大学卒業までとすることも考えられます。

養育費についての話し合いがまとまらない場合は、調停

養育費について話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。

調停とは、調停委員という家庭裁判所の職員が間に入って、当事者の話し合いを調整する制度です。

当事者間では感情的な言い合いになっていても、第三者が間に入ることで相手方も冷静に話し合いに応じる場合もあります。

養育の調停については、くわしくはこちら。

  1. ・関連記事 養育費調停の流れや必要書類などをわかりやすく解説します

 

離婚協議書を作成する際の養育費の条項

離婚協議書を作成する際に養育費の記載例をまとめました。

下記は、あくまで記載例です。

離婚についてはそれぞれケースバイケースですので、実際に離婚協議書を作成する際には、それぞれの個別的な事情を考慮して作成する必要があります。

養育費の一般的な条項

  1. 第〇条 Aは、Bに対し、当事者間の子C(令和〇年〇月〇日生)の 養育費として、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日まで、毎月〇万円の支払義務があることを認め、これを毎月末日限りB名義の預金口座(〇〇銀行〇〇支店普通預金口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料はAの負担とする。 

 

子どもが2人いて、それぞれ20歳になるまで支払う場合は、次の通り。

  1. 第〇条 Aは、Bに対し、当事者間の長男C(令和〇年〇月〇日生)および長女D(令和〇年〇月〇日生)の養育費として、令和〇年〇月〇日から同人らがそれぞれ20歳に達する日の属する月までの間、毎月〇万円の支払義務があることを認め、これを毎月末日限りB名義の預金口座(〇〇銀行〇〇支店普通預金口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料はAの負担とする。

 

離婚協議書に記載すべき養育費に関する事項は下記の通り。

  1. ・養育費の金額
  2. ・支払いの開始時期
  3. ・支払いの終了時期
  4. ・支払い方法

 

開始時期については、離婚した月からとすることが一般的ですが、別居開始時とすることもあります。

また一定期間経過後とすることもできます。

終了時期については、未成熟子が成熟子に変わったとき、つまり子どもが独立して生活を営むことができるようになったときです。

しかし、個々の事情によって判断されるので、一律に何歳と決まっているわけではなく、当事者の合意で取り決めることができます。

一般的には、成年に達するまでとされることが多いです。

令和4年4月1日に民法が改正され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。

成人

しかし今後も18歳、19歳の子に対する親の扶養義務が否定されるわけではありません。

経済的に未成熟であれば、親は扶養義務を負うことになります。

また20歳以上でも、子どもが大学などに進学しており独立していない場合、個別の事情によっては、親の扶養義務が認められる場合があります。

そこで終了時期を、大学を卒業するまでと定めることも考えられます。

終了時期の取り決めについては、「令和〇年〇月〇日」のように確定期日を定めることもできるし、「子が高等学校を卒業するまで」などと不確定の期限を定めることもできます。

ただし、「子が高等学校を卒業するまで」とした場合、留年などで予測より遅れることもあり得ます。

この場合、争いが生じないように、不確定の期限を定める場合は、予定より遅れた場合どうするかについても定めておいたほうがいいでしょう。

養育費を一括払いにする場合

養育費を一括払いにする場合の記載例です。

  1. 第〇条 Aは、Bに対し、当事者間の子C(令和〇年〇月〇日生)の養育費として、○○円を一括して支払う義務があることを認め、これを令和○○年○○月○○日までに、B名義の預金口座(〇〇銀行〇〇支店普通預金口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料はAの負担とする。

 

養育費は毎月の定額払いであることが一般的です。

支払義務者が一括払いできる資力がある場合は、一括払いにすることもできます。

月払いの場合、養育費の支払いが長期にわたるうちに、支払わなくなってしまう可能性もあるので、一括払いを受けるメリットがあります。

もっとも、養育費を一括払いにする場合、次のような注意点があります。

  1. ・一括払いの場合、毎月の定期払の総額より少ない金額になってしまうことがある
  2. ・一括払いで受け取ると、一度に受け取る養育費が多額になるため、贈与税が課税される可能性がある
  3. ・子どもが成人になるまでに養育費を使い果たしてしまった場合、養育費の増額請求ができなくなるおそれがある

子どもの学費や医療費の負担者を決めておく場合

  1. 第〇条 Aは、Bに対し、当事者間の子C(平成〇年〇月〇日生)の養育費として、令和〇年〇月から令和〇年〇月まで、毎月〇円の支払義務のあることを認め、これを毎月末日限りB名義の預金口座(〇〇銀行〇〇支店普通預金口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料はAの負担とする。
  2. 2 Aは、Bに対し、前項に定める金員のほか、Cの通学する〇〇高等学校の学費として〇円の支払義務のあることを認め、これを令和〇年〇月〇日限り、前項記載のB名義の預金口座に振り込む方法により支払う。振込手数料はAの負担とする。
  3. 3 Aは、Bに対し、Cが大学に進学したときは、大学の入学金及び授業料を第1項記載のB名義の預金口座に振り込む方法により支払う。振込手数料はAの負担とする。

 

標準算定表は、公立の小中学校、高等学校の教育費が盛り込まれて算出されています。

なので、これらの学校の学費などは月額の養育費に含まれます。

しかし、子どもが私立の学校に通っている場合や、国公立を含む大学に進学したとき場合については、標準算定表には盛り込まれていません。

そのため、子どもがこれらの学校に進学する場合に備えて、これらの学費について誰が負担するのか定めておくことも考えられます。

子どもがこれらの学校に進学する予定がある場合、支払義務者が合意するのであれば、特別な学費の負担についても定めておくといいでしょう。

養育費に代えて不動産を譲渡する場合

不動産の譲渡
  1. 第〇条 Bは、Aに対し、子C(令和〇年〇月〇日生)およびD(令和〇年〇月〇日生)の令和〇年〇月から同人らがそれぞれ満20歳に達する日の属する月までの養育費に充てるため、別紙物件目録〔省略〕記載の不動産を譲渡し、当事者双方は、協力してその所有権移転登記手続をすることとする。ただし、登記手続費用は、Aの負担とする。

 

養育費の支払いの代わりに住んでいた自宅不動産を譲渡する場合の記載例です。

この場合、養育費の一括払いの場合と同様に、後日、養育費の増額請求ができなくなるおそれがあるので注意が必要です。

また、住宅ローンが残っている場合、養育費の支払いに代わりに支払義務者が住宅ローンを支払い続けるという方法もあります。

しかし、この場合は住宅ローンの返済が滞ってしまうと、不動産に付いている担保権を実行されて、自宅を失ってしまうことがあるため、このような合意は避けておいた方がいいかと思います。

胎児の養育費を請求する場合

奥さんが妊娠中に離婚する場合、胎児の養育費の支払い義務が発生するのは出産後になります。

しかし、出産前に養育費について協議して取り決めることもできます。

この場合の記載例です。

  1. 第〇条 AB間の胎児(令和〇年〇月〇日出生予定)が出生したときは、Aは、Bに対し、同人の養育費として、同人が出生した月から同人が20歳に達する日の属する月まで、毎月〇円を、毎月末日限り、Bの指定するB名義の預金口座(〇〇銀行〇〇支店普通預金口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料はAの負担とする。

 

将来、事情の変更があった場合に養育費の変更ができるようにする場合

離婚するときの子どもの年齢が低く、養育費の支払い期間が長くなる場合は、将来的に事情が変更になる可能性があります。

そのような場合には、将来、再協議する旨の条項を記載しておくと、養育費の継続的な履行が確保できる可能性が高まるかと思われます。

  1. 第〇条 Aは、Bに対し、当事者間の子C(令和〇年〇月〇日生)の養育費として、次のとおり支払義務のあることを認め、これを毎月末日限りB名義の預金口座(〇〇銀行〇〇支店普通預金口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料は、Aの負担とする。
  2. 2 AおよびBは、物価の高騰、当事者双方の経済状態、その他の事情の変更があった場合には、前項の養育費の額について改めて協議する。

まとめ

以上、養育費について解説しました。

養育費は子どもの利益のために、離婚の際に取り決めておくべきものです。

早く離婚したい気持ちから、十分な話し合いをしないまま決めてしまわずに、じっくりと話し合いましょう。

 

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というわけで今回は以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。